心魂　５

『利吉さんが私を見ない。』

それでも乱太郎は利吉の傍に居た。

利吉が土井の傍に居る時以外は・・・。

利吉が土井と話す時、乱太郎はいつも遠くから二人を見ていた。

いつも途中から三人になるのだが。

表面上はなんでもない様な顔をしている乱太郎。

心の奥底では“痛いイタイいたい”と叫んでいた。

―どうして私を見てくれないの？

―私以外の人とそんなに楽しそうに笑い合わないで。

―私以外の人に自然に触れないで。

―私の傍にいてください。

―私を抱きしめて。

―あなたの傍で泣けたらいいのに・・・

そんな乱太郎の心など知らず利吉は土井と話し続ける。

『私がまだ利吉さんの気持ちを知らない時

利吉さんもこういう気持ちで私を見ていたのかな？』

乱太郎はそう想うと痛みを素直に受け入れることが出来た。

でも、やっぱり、イタイものは痛いし、苦しいものはクルシイ。

「ら〜んたろう♪」

乱太郎の名を叫ぶその人は、乱太郎の背中に抱きついてきた。

乱太郎は必死にその腕から逃れようとするのだが、その人の力は強く、よりいっそう強く抱きしめられる。

「ちょっ大木先生!!離してください。」

乱太郎の抗議の声など無視して大木は利吉を見た。

「ほう。噂は本当だったんだな。いつもならすっ飛んでくるのに。」

利吉は遠くからその光景を見ているだけ。

以前の利吉なら乱太郎に触れさすことさえさせなかった。

「なぁ乱太郎。ワシに乗り換えたらどうだ。」

大木が乱太郎の耳元で甘く囁く。乱太郎はただ首を横に振るだけ。

「もう何週間ヤッテないんだ？」

乱太郎を抱きしめていた大木の手は乱太郎の服の中へと進入してきた。

「な・大木先生。止めてくだ・・・あっ・・」

少し赤い実を撫でられただけで乱太郎は声を変化させた。

「ほら、タマッテんだろ。」

「そんなことありません。」

「嘘言うなって。此処じゃ嫌か？」

「何処でも嫌です。」

「強情だな。」

大木は乱太郎の首元に顔を埋め下から上へと舐めあげた。

乱太郎は押し上げてくる熱い衝動に必死に耐えていた。

遠くからでも大木が乱太郎にしていることは見えていた。

大木はわざと見せていたのだ。それでも利吉は動かなかった・・・いや動けなかった。

『大木先生が・・・そうなのか。』

動かない利吉の変わりにきり丸が動いた。

「おっさん。白昼堂々と強姦してんじゃねぇよ。」

きり丸が乱太郎の腕をおもいっきり引っ張った。

乱太郎はきり丸の背後に隠れた。

「なんでお前が来るんだ。」

大木の言葉に乱太郎がきり丸の服をギュウと握った。

遠くから見ていた利吉はおもわず呟いた。

「大木先生ではないのか。」

土井はその呟きを聞き逃さなかった。

「そうだよ利吉君。乱太郎の想い人はあの人ではないよ。」

土井の言葉に利吉は目を大きく開かせた。しかし、すぐさま冷静になった。

「土井先生は知っているんですか？」

「乱太郎に直接聞いてみればいいじゃないか。」

土井はしれっと答えた。

利吉は土井に背中を押され　乱太郎たちに近づいていった。

「きり丸お前には関係ないだろ。乱太郎を渡せ。」

大木は乱太郎を自分に引き寄せようとしたその時だ。乱太郎の腕は利吉に掴まれていた。

「あなたに聞きたい・・・」

利吉の言葉が終わる前に乱太郎は掴まれている腕を振り払ってすごい勢いで走って行った。

その行動の素早さに四人は呆然とした。

乱太郎の姿が見えなくなった時点で我に返った大木は追いかけようとしたが、

きり丸と土井に阻止された。

「ほら行けよ利吉さん。」

「もう答えは出ているんだろ利吉君。」

利吉は頭を下げ　そして乱太郎が走って行った方向へと向かった。

続く

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