消えない想い　３

きり丸は上からの命令を完璧にこなしていた。その甲斐あってか信頼も厚い。

同期からの信頼も厚く　自分の株を上昇させている。

でも、誰にも本当の心は見せない。固く閉ざしたまま。

自分の本当の気持ちも心底に沈ませている。

心を許す相手はもう近くにない。きり丸自身が遠避けた。自分の心を守る為に。

「よぉ。きり丸久しぶり。」

きり丸が久しぶりの休暇で町を歩いていると声をかけられた。

「なんだ。金吾かぁ。」

「悪かったな。乱太郎じゃなくて。」

きり丸はその名の聞いても平然としていた。

「何言ってんだか。」

その様子に金吾は話を切り出した。

「お前ら本当に会ってないのか？」

「・・・あぁ。」

「そうか・・・じゃぁきり丸は知らないだろうな。」

「何を？」

「乱太郎の奴さぁ。今しぶ鬼と組んでるらしいぜ。」

「へぇ・・。」『ズキッ』

「俺は絶対乱太郎とお前が組むって思ってたからな。正直驚いたぜ。」

「組むわけないだろ。俺は城に勤めてんだからさ。」

「しかも・・・乱太郎かなり無茶な依頼ばかり受けてるらしいぜ。」

金吾が真剣な顔できり丸を見た。

「へぇ。」

「乱太郎とお前の間になにがあったかなんて俺は知らねぇけど。乱太郎の無茶はきり丸に関係してんだろ？」

「・・・・。」

きり丸は無言のまま空を仰いだ。

「会いに行ってやれよ。」

金吾の台詞にきり丸は微かに笑い言った。

「無理だね。」

「なんで！！！」

「俺に勇気がないから・・・かな。」

きり丸は静かにそう言った。

きり丸は恐れてるんだ。手に入れてしまった後無くしてしまうのを。

私はその心を知っていた。だから振られるのもわかっていた。

知っていたから告げたんだもの。きり丸はもう大切なモノを無くしたくないんだ。

あの悲しみをもう一度味わうのが嫌なんだろうね。私はきり丸に負けて欲しくない。

でも、きり丸の心はきり丸のモノだから私には入り込めない。だからもう私からは会えない。

会いたいけど・・・傍にいて心を守ってあげたいけど。それじゃ意味がないんだ。

きり丸自身が気づかないと駄目なんだ。だって・・・一人は寂しいもの。

きり丸への想いを忘れてしまえば傍にいてもいいのかもしれない。でもきっと無理だよ。

一応忘れる努力もしてみるけどこの想いはそう簡単に消えそうに無い。

だから私は待つよ。きり丸が本当に私を必要としてくれるのを。

それが有りえないことだとしても・・・私は待つよ。

「勇気がない？」

「あぁ。」

「なんだよそれ。」

きり丸は曖昧に笑う。

『欲しいものを欲しいって言えないわけじゃない。でも手に入れた後それを失うことにきっと俺は耐えられない。だから最初から手に入れない方がいいんだ・・・きっと。』

「しかし級友たちは本当に御節介が多いな。」

そう金吾と会う数日前には庄左エ門その前には団蔵がきり丸に会いに来ていた。

そして後日、他の級友が現われる。

しかし一番会いたい人は現われない。

「お前に会いたいよ・・・乱太郎。」

きり丸の嘆きにも似た呟きは誰にも聞かれず空気に散った。

続く

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