刻　２

乱太郎が入学して早くも数ヶ月が過ぎようとしていた。

今日も昨日に引き続きとても良い天気だ。

こうも天気が良いと必ずあの子たちは、授業中に居眠りするんだろうな。

しかし、今日は休日だ。あの子たちは、休みの日は（も？）元気だからな。

「おはようございます、土井先生。」

空を見上げながらそんなことを考えていると声をかけられた。

近づいてきているのは気配でわかっていた。

だけど、今気がついたかのように俺は返事を返した。

「おはよう、乱太郎。」

乱太郎が元気に笑っているから俺も自然と笑顔になる。

乱太郎を見ていると元気になれるが不安にもなる。

『一体、この子はいつ消えてしまうのだろうか？』

俺が乱太郎と行動していたあの頃少なからず乱太郎は、忍としての基本を身に付けていた。

ということは、そろそろだろうか。

今、授業では基本を重点的に教えている。

それは、本当に必要なことでそれを身に付けていないと忍としてやっていけないだろう。

乱太郎たちの行動を見ていると本当に理解しているのか疑問に思うことが多々ある。

だが、よく騒動に巻き込まれるが最終的に丸く治まっているので身にはついているだろう。

俺がそう思っているだけだったらどうしようかねぇ。

「土井先生？」

乱太郎の声に反応して俺は、我に返った。

どうやらかなり自分の考えに没頭していたようだ。

「ん、どうした乱太郎？」

「具合でも悪いんですか？」

心配そうな覗き込んで俺をジッと見つめてくる表情が可愛くて愛しくてたまらない。

俺は、本当に極自然に笑みを零した。

「大丈夫、私はどこも悪くないよ。」

どうも、俺は乱太郎を眸に映すと深く考え込んでしまうな。

「良かった。」

乱太郎の心底安心したような表情が嬉しくてしょうがない。

乱太郎は、優しい子だ。

その優しさは、俺以外の人にも降り注がれる。

そして、俺は今もあの頃と同じことを想う。

『俺だけに向ける優しさが欲しい』

そんなのは、到底無理な話だろうがな。

「そういえば、乱太郎一人か？」

乱太郎の傍には、いつも誰かしらの存在がある。

「きり丸はバイトで、しんべヱはまだ寝てます。」

そうだろうな。今日は、休日だ。

「そうか、で乱太郎はどうしてここに？」

空に向って腕を伸ばし背伸びをしてる乱太郎がふんわりと笑ってこちらを向いた。

俺は、そんな他愛もない仕草にも見惚れてしまう。

「土井先生を見つけたから。」

嬉しいことを言ってくれる。

その言葉一つで、どんなに俺の鼓動が早くなっているのかこの子はわかっていないだろうな。

ずっと想い続けていた。

本当に出会えるのか不安だった。

「乱太郎。」

「はい。」

俺は、抱きしめたい衝動を抑え乱太郎の頭を撫でた。

ふわふわした緋色の柔らかい髪の感触が心地良い。

「美味しい団子があるからお茶でも飲むか？」

深緑の眸がキラキラと輝やかせて顔を大きく縦に振る姿が本当に愛らしい。

「私もご一緒させていただきたいですね。」

来たか。

ご丁寧に気配まで消して現れることもないだろうに。

「あ〜、利吉さんだ。おはようございます。」

ハァ〜、わざわざ抱きつきにいかなくてもいいだろ、乱太郎。

そうでなくても利吉君は、乱太郎にところかまわず抱きつくのに・・・羨ましい。

「おはよう、乱太郎。土井先生もおはようございます。」

ついでっぽい挨拶もいつものことだ。

「おはよう、利吉君。山田先生に御用かい？」

それなら、早く行け。

「いいえ、ちょっと近くまで来たので乱太郎の顔を見に寄っただけです。」

だぁ〜、乱太郎嬉しそうに抱きつく腕を強めるんじゃない。

これ見よがしに乱太郎に触りまくる利吉君に殺意が芽生えるじゃないか。

「とりあえず、それでもちゃんとお父上に挨拶してきなさい。」

「利吉さん、山田先生に挨拶した後一緒にお団子食べましょ。」

乱太郎・・・いらんことを言うな。

「じゃ、さっさと挨拶すませてくる。」

きっと、山田先生も来るな。

利吉君もあの頃から乱太郎にベッタリだったからな。

それにしても、いきなり何も知らない乱太郎を見つけた瞬間抱きつくか。

俺なんか抱きしめたかったのを必死で抑えてたんだぞ。

「会いた・・・んぐぅ！」

いきなり口走りそうな利吉君の口を押さえて山田先生と俺で乱太郎から引き剥がしたんだよな。

幸い乱太郎が、別段疑問にも思っていなかったのが救いだったな。

しかし、あれだな。乱太郎は、俺のなんだから早く諦めろって感じだ。

続く

１

３