刻　１

「おかえり」

「ただいま」

あの子の姿が眸に映し出された瞬間、俺の身体はまるで遠いあの日に感じたような衝撃を受けた。

そして、あの日あの時とまるで変わらないその姿にあの刻が夢・幻でなかったと安堵した。

「初めまして。」

そう初めましてだ。

これが、この子にとっての俺との最初の出会いだ。

「初めまして、君は入学希望者？」

「はい、猪名寺乱太郎です。」

知ってるよ。

あぁ、これからのことを思って眸を輝かせている乱太郎を今すぐにでも抱きしめたい。

だけど、それは叶わぬことだ。

この子は、乱太郎は、俺のことをまだ知らない。

「あなたは？」

「私は、土井半助。この忍術学園の教師だ。」

「土井先生ですね。宜しくお願いします。」

「あぁ、宜しく。」

差し出された手に俺は、自分の手を重ねた。

あの頃よりも小さな手だ。

俺があの頃よりも大きくなったのか。

「乱太郎、こっちだって。」

新しく出来た友に名を呼ばれ乱太郎の小さな手が俺の手から離れていった。

「とうとうこの刻が来ましたな。」

「えぇ。」

この人山田伝蔵は、あの時と変わらず忍術学園の教師をしている。

「嬉しそうですな。」

「わかりますか？」

「そりゃ、それだけ顔が緩んでいればわかるってなもんです。」

いつもと変わらないようにしているはずなのにどうやら駄目らしいな。

乱太郎に会えなかった年月は、長かった。

次に会えた時ちゃんと向き合えるように眸を逸らすことなどないように俺は生きた。

「私は、半助さんとまた出会いたい。」

乱太郎のあの言葉が俺をここまで成長させた。

なぁ、乱太郎。

また、俺を名前で呼んでくれ。

そして、俺の傍らで笑ってくれ。

続く

平成１７年１月１４日

２