明日には明日の風が吹く
乱太郎奮闘記 ９
それは乱太郎が先日のお礼にと手作りのお菓子を持って将太の家へと向かっていた時だった。
いきなり山中から女の子が飛び出してきた。そしてその背後から数人の男が追いかけていた。
とりあえず乱太郎は女の子とを庇った。どうみても追いかけている男共は悪そうな顔だったからだ。
「なんだお前は怪我したくなければどいていろ。」
そんな言葉に怯むわけでもなく乱太郎はニコニコと笑っていた。
「駄目だよ。女の子には優しくしないと。」
「お前には関係ないことだ。」
「さっさとその子を渡せ。」
「嫌です。」
乱太郎ははっきりとそう告げた時
「お〜い。何やってんだそんな所で？」
数人の村人が集まってきた。
「っち・・・今回はこれで引くが次は無いと思え。」
男共はそう捨て台詞を吐いていなくなった。
「どうした乱さん。」
「なんでもないですよ。皆さんこれから畑仕事ですか？」
「そうなんですよ。おっ可愛らしい子ですな。」
「えぇ怪我をしているみたいなので村で手当をしようと思いまして。」
「それはいかん。引き止めて悪かった。」
「いえいえ。それじゃ皆さんもお気をつけて。」
乱太郎はその女の子を連れて将太の家へと向かった。
「将太君。楓さんは？」
いつもなら居るはずの楓がいないので乱太郎は首を傾げた。
「母ちゃんなら今日は気分がいいからって外に散歩に出かけたぜ。」
「だいぶ良くなってるね。」
「乱の薬のおかげだな。」
将太の嬉しそうな顔に女の子も自然と顔を緩めた。
女の子は必死で逃げていたのだろう。身体のあちらこちらに擦り傷などがあった。
「痛くないからね。」
乱太郎に優しくそう言われ女の子は大人しく手当を受けた。
「はい完了。」
「・・・どうもありがとう。」
「そう言えば自己紹介がまだだったね。私は猪名寺乱太郎。」
「俺は金竹将太。」
「私は・・・」
「茉莉様・・・なぜこのような所に・・・。」
三人が振り向くとそこには将太の母楓が驚愕の顔で立っていた。
「母ちゃんこの子のこと知ってんの？」
「楓・・・？」
「覚えてくれているのですか。」
楓の目から光るものが頬へ流れた。
「忘れるはずがない。」
そう呟くその子を楓はソッと抱き締めた。
「この御方は○×城の姫にございます。」
「ひ・・ぐぅ・・」
叫びそうになった将太の口を乱太郎が塞いだ。
「初めまして遠山茉莉と申します。」
乱太郎と将太は深々と頭を下げた。
茉莉はこっそりと城を抜け出し外の世界を探検していたのだ。
追っていた男共は茉莉を誘拐し身代金を城へと要求しようと企んでいた。
「茉莉様駄目ですよ。お供もつけず外に出ては。」
楓が優しくそして厳しく茉莉に言った。そして茉莉はそれに対し素直に頷いた。
楓は茉莉の家庭教師兼守り役だった。
そうあの日までは――――
楓の最愛の人つまり翔太の父親は茉莉を守って逝った。その時、将太は楓のお腹の中にいた。
そして楓は『自分は茉莉様の重荷になる』と感じ茉莉に何も言わず最愛の人の故郷であるこの村に来たのだ。
一応お殿様の承諾は得ていた。優しい村人に支えられながら女手一人で頑張って将太を育てていたが流行り病に倒れ今に至る。
「なぜ黙って居なくなったの。」
茉莉は自分を庇った忍びが楓の最愛の人だとは知らないのである。
「すいません・・・あの頃私は情緒不安定で正気を保つことが出来なかったのです。」
「じゃ・・・これからも遊びに来てもいい？」
茉莉が楓にしがみつく。
「・・・お供の者をつけると約束してくれるのなら。」
「本当!!!うん約束する。」
顔をあげた茉莉は本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
「というわけで将太仲良くしてさしあげてね。」
そう言われて断わる理由もなく将太は承諾した。
「じゃ姫様今日はもう戻りましょうか。」
いつのまにその場にいたのか長い黒髪を後ろで一束に束ねた男とも女とも見える中性的な人が立っていた。
「ゆい。」
ゆいと呼ばれたその人は茉莉の顔の前にゆっくりと自分の顔をもっていき有無も言わさず茉莉の両頬を引っ張った。
「い・・いひゃい・・ゆひ・・」
ゆいは頬から手を離しにっこりと笑った。
「なんで私が雇われたのかが今日わかりましたよ。」
「・・・ごめんなさい。」
「それはなんで私が怒っているかを理解したうえで謝っているんですよね。」
茉莉は大きく頷いた。
「じゃいいですよ。」
「それじゃこれからもここに遊びに来てもいい？楓の承諾は得たの。」
「ん〜いいですよ。その代わり私も一緒じゃないといけませんよ。」『その方がこっちも好都合だし♪』
「皆さん落ち着いたところでお茶にしません？」
乱太郎が皆の分のお茶をいれお菓子までちゃんと食べられるように準備していた。
「乱・・・それ俺にくれるんじゃ・・」
将太が言い終わる前に女三人が歓喜の声をあげた。
「乱さんの手作りお菓子美味しいのよね。」
「お菓子食べる〜。」
「いや〜ん。ちょうど甘い物が欲しかったのよ。」
お腹いっぱいになった所為か茉莉は眠ってしまった。
楓も大事をとって横になった。
将太は村の畑仕事のお手伝いに出かけた。
残ったのは乱太郎とゆいの二人だ。
「まさかゆいさんが一つの仕事に長いこと就くなんてねぇ。」
「何よ乱太郎その言い方失礼よ。目上の人に向かって。」
「ゆいさん見た目が若いから・・・年上って感じがしないんですよ。」
「それこそ失礼だわ。」
「土井先生に頼まれたんでしょう。」
「知ってたの？」
「バレバレですよ（笑）土井先生心配症だから。」
「なるべく内密にって言われたんだけどね。」
「優秀なフリーの忍者なんだから出来たでしょう・・・内密に。」
「そりゃそうよ。なんてたって利吉さんより優秀なんだから私。」
「自分で言いますか。」
「あら言うわよ。本当のことだもん。」
「それじゃ茉莉さんも安心ですね。」
「それは嫌味かしら。」
「とんでもない。今日のことは置いといてこれからのことですよ。」
「そりゃ一度引き受けた仕事は完璧にやるわよ。半助にもバシバシ報告するわよ。」
「そういえばゆいさん先刻の男の人たち殺してないんでしょう。」
「一応ね。でも一生寝て暮らすんじゃない。」
笑顔でそう話すゆいに乱太郎も当然の如く笑顔で応えた。
そんなこんなで乱太郎とゆいは知り合いなのでした。
続く
遠野茉莉（提供：桜山可憐さん）
ゆい（提供：ゆきこさん）