僕の傍に ２７
清々しい青空が広がる空をヘリコプターで先を急ぐは、仙蔵と長次である。
「あぁ、あそこだ」
ナビで探す手間などいらず、二人はすぐに目的地を見つけた。
「また、派手にやってるな」
地上からは、ある一帯から、もくもくと砂煙が立ち上がっていたのだ。
乱太郎と兵太夫は、まだ兵太夫が捕まっていた部屋にいた。
「ここら辺なんだけど」
「乱太郎、モーター音がかすかに聞こえる」
兵太夫は、なにもない普通の壁を指差した。
「兵太夫、そこ軽く押してみて」
――― カチャ
兵太夫がそこを押すと壁が開き中からエレベーターが出てきた。
「これねぇ、屋上に直結してるんだよぉ」
乱太郎は、兵太夫の手を引っ張りそこに乗り込んだ。
「早くしないと、もうすぐ崩れるから」
思っていた以上に狭いそこに、兵太夫は乱太郎を抱き包んだ。
抱き包まれながら乱太郎は、それを難なく動かした。
シューっとものすごい速さでそれは動く。
明かりもなく暗闇の中で兵太夫は、自分が包み込んでいる乱太郎を更に強く抱きしめた。
「乱太郎」
愛しい名を呟き兵太夫は、乱太郎の頭に頬を摺り寄せた。
「兵太夫、もうこんなの嫌だからね」
「お説教は、帰ってから聞くさ」
「・・・もう、屋上についたら一発いい？」
「いいよ」
躊躇いなく乱太郎の言葉に頷くのは、兵太夫が本当に悪いと思っているからだ。
暗闇の中の二人だけのわずかな時間、二人は笑みを浮かべていた。
仙蔵と長次を乗せたヘリコプターは、もう屋上付近にまで来ていた。
「こうも砂煙がすごいと前が見えないな」
仙蔵は、そう言っているが、実は二人ともしっかりと屋上を捉えていた。
二人は目がいいだけではなく動体視力もいい。
そしてなにより勘が鋭いのだ。
「来るな」
「あぁ」
長次がヘリコプターを空中で安定させ、仙蔵がそこから梯子を屋上に向かって投げた。
スゥ−っと静かに屋上に到着した二人は、差し込んで来た光りに少しだけ目を細めた。
「兵太夫、目を瞑って」
乱太郎にそう言われて、兵太夫は目を瞑った。
殴られるのを覚悟していた兵太夫なのだが、次の瞬間、何が起こったのか一瞬わからなかった。
――― ちゅっ
兵太夫は、自分の唇を指で触れながら乱太郎を見た。
「兵太夫行こう。お迎えが来てるよ」
背中を見せていた乱太郎だが耳や首筋が色づいていたのを兵太夫は、見逃さなかった。
自分の唇に感じた柔らかい感触、それはそう間違いなく乱太郎の唇だ。
「乱太郎」
兵太夫は、本当に嬉しくて愛しくて乱太郎を背後から抱きしめた。
「ちょっ、兵太夫」
兵太夫の行動を咎める乱太郎に兵太夫は、すぐに乱太郎から離れた。
「帰ったら、僕がいっぱいいっぱいお返しするから」
その言葉に乱太郎は、面白いように顔を真っ赤にさせた。
その光景を仙蔵と長次は、空中から見ていた。
「あの子たちは、なにをやってるんだ」
仙蔵は、呆れたようにだけど嬉しそうにそう言った。
その横で長次は、笑みを浮かべていた。
続く
平成21年8月5日