僕の傍に ２２
兵太夫が攫われたという報告を受けた仙蔵は、社長室の椅子に座っていた。
その一報は、すぐに他の兄たちに知らされた。
どうしたものかと思案している兄たちの元にある情報が入って来た。
「社長、大変です」
「どうした綾部」
普段から冷静な綾部がいつもよりも少し慌てた様子で社長室に入ってきた。
「これを見て下さい」
綾部は、自分のノートパソコンを開いた。
「これはまた急だな」
「この会社が上場企業ってことが信じられなかったしな」
「しかしこの急落はすごいな」
ノートパソコンを覗き込んだ兄たちは、その画面に映し出されていた折れ線グラフに各自感想を述べた。
「綾部」
「はい」
「このドクタケ会社は、取引もないし俺たちには関係ないだろ」
文次郎の言葉に、他の兄たちも賛同した。
「そうなんですけど、あまりにも急な落ち方なのでなにかあるかと」
「それもあるよなぁ」
小平太がマジマジと画面を見つめた。
「昨日までは正常だったのにな」
「綾部」
それまで黙っていた仙蔵が情報課の綾部の名を呼んだ。
「はい」
「ご苦労だった。下がっていいぞ」
「はい」
綾部を下がらせた仙蔵は、他の兄たちに口を開いた。
「今日、兵太夫が攫われた」
他の兄たちが頷く。
「そして今日ドクタケ会社の株が暴落した」
「なにか関係あると？」
「あぁ、直感だがな」
「お前のそれは外れたことがないからな」
留三郎が苦笑気味にそう言った。
その時、仙蔵の携帯が鳴った。
続く
平成20年12月29日