僕の傍に ２1
兵太夫が攫われたのは学校のすぐ傍だ。
教室から乱太郎は不破と鉢屋がなにやら慌てている様子を目聡く見つけていた。
「土井先生」
「どうした乱太郎」
「早退します。それと今日学園長は、来ていますか？」
「あ、あぁ、来ているが」
「では、失礼します」
乱太郎は、立ち上がり教室を出ようとしたがその前にきり丸に小さな声で声をかけた。
「きり丸、株に手出してるでしょ」
にっこりと笑っている乱太郎に嘘をついてもしょうがないとばかりにきり丸は頷いた。
「ドクタケ会社の株買ってる？」
その言葉にきり丸は、顔を横に振った。
「そう、ならいいね」
なにがいいのかきり丸は、久しぶりに見る乱太郎の様子に背中に汗を滲ませていた。
乱太郎は、普段の乱太郎からは想像できない微笑みを浮かべていたのだ。
教室を出た乱太郎は、不破と鉢屋に声をかけた。
「不破さん、鉢屋さんどうかしましたか？」
「「乱太郎君」」
不破と鉢屋は、話していいものかどうか迷った挙句乱太郎に状況を話した。
「全員同じ服装で丸眼鏡、ですね」
「あぁ」
乱太郎は、それだけで全てを把握したようだ。
「不破さん、鉢屋さん。このことは仙蔵さんに？」
「あぁ、連絡した」
「そうですか。きっと仙蔵さんは仙蔵さんで動きますね」
「乱太郎？」
いつもと様子が違う乱太郎に不破と鉢屋は顔を見合わせた。
そんな二人に向かって乱太郎は、それはもうにっこりと可愛らしい笑みを向けた。
「潰します」
「「え？」」
乱太郎は、小さな声でそう呟くと二人に背中を向けた。
乱太郎が向かったのは、学園長室だ。
ノックをして乱太郎は、その部屋に入った。
「失礼致します」
「どうした乱太郎。ここへ来るなんて珍しいの」
「学園長」
「なんじゃ」
「メインコンピューター使わせていただきます」
「急だのぉ」
「学園長」
乱太郎は、笑みを浮かべているが目は笑っていない。
学園長は、咳払いを一つして机の下のスイッチを押した。
「ありがとうございます」
開かれた扉に乱太郎は入っていった。
乱太郎を追いかけてきた不破と鉢屋は、その様子を見て呆然としていた。
「あやつが頼みごとをしてくるなんて滅多にないからの」
楽しそうに笑う学園長は、乱太郎に素性を全て知っている。
外部入学者と称して乱太郎をこの学校に迎え入れたのも学園長だ。
確かに乱太郎の成績は、TOPクラスでこの学校にも文句なしで入ることができた。
「どういうことですか？学園長」
鉢屋は、学園長に詰め寄った。
「乱太郎君の様子がいつもと全然違う。学園長は、なにかご存知なのでしょう？」
不破の質問に学園長は、にんまりと笑った。
「あれだけ怒っている乱太郎を見るのは初めてじゃな」
「怒っている？」
「そうじゃ」
今の状況を知っても学園長は、慌てる様子もなくやはり楽しそうだった。
「ドクタケ会社も懲りんの」
学園長の言葉と共に乱太郎が扉から出てきた。
「学園長ありがとうございました」
乱太郎は、学園長に一礼しそのまま学園長室を後にした。
当然不破と鉢屋は、乱太郎を追う。
続く
平成20年10月8日