浴衣 〜中〜
祭りの中心に近づくにつれて人が多くなりだした。
「すいません。」
乱太郎が人に当たり謝る。そんな様子を見て土井は手を差し出した。
「？」
乱太郎は首を傾げる。
「ちゃんと捕まえておかないと何処かへ行ってしまいそうだからな。」
そう言って土井は乱太郎の手を握った。
「土井先生。私はもう迷子になるような歳じゃないですよ。」
乱太郎は頬を膨らましながらも土井の手を握り返した。
祭りの中心では屋台が立ち並んでいた。
「乱太郎。浴衣のお礼に何か奢ってやるぞ。」
「本当ですか〜v」
乱太郎は何を奢ってもらおうかと屋台を見てまわった。
――――― ヨーヨー釣りも面白そうだし
――――― 射的も面白そうだし
――――― りんご飴も美味しそうだし
――――― 綿菓子もすてがたい
――――― 金魚すくいもいいかも
どれにしようかと迷う乱太郎を土井は“可愛いな”と思いながら見ていた。
「土井先生。決めました。」
そう言って乱太郎が土井を見上げた瞬間に二人の視線が重なった。
しばしの沈黙。
「どうした乱太郎。決めたんだろう。」
笑顔でそう言う土井に乱太郎は微かに顔を赤らめ頷いた。
「はい。ヨーヨー釣りにします。」
「土井先生ありがとうございました。」
乱太郎がヨーヨーのゴムを指に絡ませパシパシ弾ませた。
二人はどんどん進んで行くと一枚の看板が目に止まった。
“肝試し”
「行くか乱太郎。」
そう言う土井の腕にしがみ付き乱太郎は首を縦に振った。
「忍者になろうとしている人間がこんなのを恐がってどうする。」
土井が乱太郎の頭をクシャクシャと撫でた。
「それとこれとは話しが違います。」
乱太郎が土井の腕にしがみ付いたまま顔をあげて言った。
そして次の瞬間、誰かが乱太郎の肩に手を置いた。土井の手ではないことは確かだった。
「うきゃ〜!!!!!」
叫び声と共に乱太郎は持っていたヨーヨーをおもいっきりその人にぶつけた。
その瞬間、ヨーヨーは割れた。
「ひでぇよな〜。」
其処には水浸しのきり丸が立っていた。
続く
平成14年7月31日