KISSの意味

 

 

乱太郎は大木を待つ間も自分になぜ大木がキスするのかを考えていた。

 

『本当になんでだろう。一人でドキドキして馬鹿みたい・・・。

先生が私を好きなわけないよね・・・。私は先生のこと・・・。

だから先生からのキスは嫌いじゃないし・・・気持ちいいんだよね。

先生はどうなんだろう?なんで私にキスするんだろう。私にキスして気持ちいいのかな?

他の人にも同じ様にしてるのかな・・・先刻の女の人とか・・・』

 

考えていくうちに乱太郎は、また胸が“ズキッ”と痛むのを感じた。

 

『もうさっきから私どうしたんだろう・・・なんだか哀しい。』

 

恋愛に慣れていない乱太郎はその感情が理解できないでいた。

 

「乱太郎。何一人百面相してんだ。」

乱太郎が振り向くと濡れた髪の毛を拭きながら寝着の前を少しはだけさせている大木が立っていた。

乱太郎はその姿に見惚れた。

 

自分を見つめ何も言わない乱太郎に大木は近づき乱太郎の頭をグシャと撫でた。

「ん?どうした乱太郎。ワシは見惚れる程ええ男か?」

乱太郎は自分が見惚れてたことを気づかれ“ボンッ!!”と一気に紅くなった。

大木としては冗談だったのだが乱太郎の反応にさらに気分が向上した。

『お―真っ赤だ。素直だねぇ・・・鳴かせたくなるじゃねぇか。』

抱きたい感情を抑え大木は本題へと話をもっていく。

 

乱太郎の真正面に座り、じっと見つめ、そして言った。

「で、何があったんだ乱太郎。」

大木の真剣な瞳に見つめられ、乱太郎は大木の言葉が頭に入ってこなかった。

次第に乱太郎は、大木の唇に瞳を移していた。

『あの唇でいつもキスされてるんだよね///今・・・キスして欲しいな・・・』

そして、乱太郎の手は無意識に大木の唇に伸びていた。

その行動に大木は溜息をついた。

大木の溜息で正気に戻った乱太郎は、自分がとった行動が大木を呆れさせてしまったと思い、とっさに手を引っ込めようとした。

しかし、それは大木がその腕を掴んだことにより叶わなかった。

「大木先生?」

乱太郎が首を傾げ問い掛けてくる。

「・・・まったく、人がせっかく我慢してんのに。」

大木の呟きに更に乱太郎の疑問は大きくなる。

『我慢?我慢って・・・先生私が此処にいることに対して我慢してるの。』

乱太郎の考えと大木の発した言葉の意味はだいぶ違うのだが乱太郎の思考回路では、こうなってしまうのだろう。

考えがどんどん増幅して、乱太郎を哀しくさせていく。

 

そんな乱太郎の感情に気がつかない大木は、掴んでいた乱太郎の腕を自分の方へ引き寄せ有無を言わさず口付けた。

乱太郎は、自分がいることに我慢している大木がなぜキスしてくるのか理解出来ず、どんどん哀しくなっていった。

そして、頭をよぎるのは先刻の女の人・・・。

 

乱太郎の瞳から雫がボロボロ落ちてきた。

大木は乱太郎の雫に気づかない振りをし行為を続けた。

乱太郎の雫は止まらない・・・。大木は乱太郎から離れ言い放った。

「煽ったのは、お前だろう乱太郎。」

大木の言葉とは関係ない答えを乱太郎は泣きじゃくりながら言った。

「お・・・大木・・・先生は、誰にでも、こういう事するんです・・・か?」

乱太郎の問いに大木は目を丸くした。乱太郎は言葉を続ける。

「もう私本当にわかんないんです。

大木先生が女の人と話してるの見てると胸が痛くなるし・・・

優しくされたりキスされると嬉しいけど皆にしてるって考えたら哀しくて悲しくて・・・カナシクテ。

先生キスしてくれるけどなにも言ってくれないし。どうして私にキスするのか全然わかんないし。

この感情をどう呼べばいいのか理解できなくて・・・・・・本当にわかんないんです。」

この時の乱太郎は自分が何を言っているのか理解していないだろう。

乱太郎の言葉を黙って聞いていた大木は口を手で押さえ、にやけ顔を隠していた。

そして、ゆっくりと乱太郎を抱き寄せ問いかけていった。

「乱太郎、ワシが女と話してるの見て胸が痛かったのか?」

乱太郎が頷く。

「ワシが乱太郎以外に優しくしたりキスしたりすると哀しいんか?」

乱太郎が頷く。

「ワシにキスされるの好きか?」

乱太郎が少し顔を紅くさせ頷く。

「ワシがなんで乱太郎にキスするのか・・・その意味わからんか?」

乱太郎が顔を上げ大木を見つめて大きく頷いた。

 

『まいった・・・ワシ言うてなかったのう。言われてもないがな。』

 

「乱太郎はワシのこと好きか?」

大木の問いに乱太郎は困惑していた。

答えはもう出ているのだが、それを口に出して言ってよいのか悩んでいるのだ。

「乱太郎の感情の名前教えてやろうか?」

乱太郎は小さく頷いた。

そして大木はそっと乱太郎の耳に囁いた。

「独占欲・・・ってやつだな。ようするに嫉妬だ。」

乱太郎は自分の感情の名を聞いて自分でも驚くほど素直に納得してしまった。

大木の顔は、なんだか嬉しそうだ。

『あぁきっとこの人は、私が知らない私の気持ちをすべて知ってたんだ。だからいつもキスしてくれてたんだ。

知っててキスしてくれてたってことは・・・。』

混乱していた頭が、すっきりした乱太郎は、大木にギュウと抱きつき言った。

「大木先生。ごめんなさい・・・ずっと気がつかなくて。私 先生のこと・・・んっ。」

乱太郎の言葉は、大木の唇によって塞がれた。

軽く柔らかい口付け・・・すぐにそれは離れ甘い声が乱太郎を包んだ。

 

「ずっと好きだったんだ・・・会った時から。」

 

大木は乱太郎の至る所にキスを落としていった。

そんな大木の両頬を乱太郎は両手で包み自分から大木の唇に乱太郎のそれを重ねた。

それは一瞬だったけど初めての乱太郎からのキス。

「このキスの意味わかりますか?」

しばし呆然としていた大木が、にっと笑い答えた。

「あぁ。」

乱太郎は大木の首に両腕を巻きつけ 小さな声で言った。

「好きです。」

 

 

終了