数回のKISS

乱太郎が目を覚ますとそこは自分の部屋だった。

どうやら眠ってしまった乱太郎を大木が抱きかかえて運んでくれたらしい。

その時土井が後ろから睨んでいたみたい（きり丸談）

乱太郎はきり丸の話を聞きながらも自分にとってはついさっきの出来事を思い出し顔を赤くしていた。

そして唐突にきり丸に質問した。

「ねぇきり丸。きり丸には好きな人っている？」

いきなりの質問にきり丸は驚いた。

「な　なんだよ突然。どっからそんな話になるんだ。」

きり丸の言葉など無視して乱太郎が質問を続ける。

「やっぱりきり丸も好きな人とキスしたい？好きな人にキスされたい？」

「何言ってんだ乱太郎。」

乱太郎は真剣な顔できり丸に詰め寄った。

「ねぇどうなのきり丸。」

乱太郎の真剣さにきり丸も真剣に答えるしかなかった。

「そりゃ誰だって好きな人とキスしたいって思ってるだろう。」

きり丸は『っていうかそれ以上も絶対したいって思ってるだろ』とも思ったが口には出さなかった。

「ねぇきり丸。なんで大木先生は私にキスするのかな？」

きり丸は誰もがわかりきっている質問に少し呆れると同時に鈍い乱太郎に惚れた大木先生を少し可哀想だと思ってしまった。

きり丸自身も乱太郎の事は友達以上に思っているのだが　いつからか乱太郎の視線の先になんとなく気づいてしまった。

乱太郎を誰かにとられるのは辛いけど親友という位置は自分の場所だからときり丸は自分自身を納得させていた。

それに今更告白して乱太郎をさらに悩ませるのはきり丸自身が嫌だった。

「乱太郎はどうなんだよ。大木先生にキスされてさ。」

きり丸の質問に乱太郎は俯いたまま黙ってしまった。

「乱太郎？」

きり丸が沈黙を破り乱太郎に声をかけた。

乱太郎は決心したのかボソボソときり丸に向かって自分の想いを話した。

それを聞いたきり丸は言った。

「乱太郎それを大木先生に直に言えよ。」

きり丸に後押しされ乱太郎は想いを伝えるべく大木先生を探していた。

でも見つからない。偶然通りかかった学園長に聞いたところもう抗瀬村に帰ったのこと。

そうですかと少し寂しそうに言った乱太郎に学園長が急に思い出したように言った。

「おおそうじゃ乱太郎。これを大木先生の所まで届けてくれんか。あやつ忘れて行きおった。」

乱太郎はラッキョを漬ける為の壷を学園長から手渡された。

「抗瀬村まで結構距離があるから乱太郎泊まってきなさい。明日から二連休やしのう。」

「えっ？でも迷惑じゃ・・・。」

乱太郎の戸惑いに学園長ははっきり言った。

「大丈夫じゃ。」『あいつは迷惑なんて絶対思わんじゃろ』

乱太郎は学園長に進められるまま手渡された壷を大事に抱え学園を後にした。

「ヘ〜ムヘムヘム。」

「“行かして良かったのか”だって　いいんじゃよ。好いてる者同士仲良くせんとな。それにワシは“恋のキューピット”じゃからのう。」

学園長の言葉にヘムヘムは何も言えなかった・・・というか言う気もなかった。

乱太郎は夕刻には抗瀬村に着いていた。

大木の家までもうすぐという所で大木の家の戸が開いた。

乱太郎の胸が“ドキン”と高鳴った瞬間“ズキン”と胸が痛んだ。

乱太郎にはこの両方の気持ちの意味がわからなかった。

ただ戸が開いた瞬間大木の横には綺麗な女の人がいた。

女の人はすぐに帰っていったが乱太郎はその場から動けないでいた。

動けないまま雨も降ってきた。乱太郎はふと思い出したかの様に歩き出した。

「・・・そうだ壷渡さないと・・・」

乱太郎が戸を“トントン”と叩くと中から声がした。

「お〜今出る。」

大木の声にまた胸が弾けた。しかし先刻の場面が脳裏に浮かびまた胸は沈んだ。

驚いたのは大木だった。戸を開けた瞬間ずぶ濡れの乱太郎が立っていたのだから。

「・・・どうした乱太郎？」

乱太郎は、大木の質問に答えず

「これ忘れ物です。」

とだけ言って帰ろうとした。その瞬間手首を捕まれ大木の方へ引っ張られた。

「この雨の中帰るのか？ずぶ濡れだし風邪引くぞ。」

大木は器用にも引っ張ったと同時に家の戸も閉めた。

そして大木は理性を保ちながらも元気の無い乱太郎を抱き寄せ触れるだけのキスをしてギュッと抱きしめ耳元で囁いた。

「一体どうしたんだ乱太郎何があった。」

乱太郎は消え入りそうな声で言った。

「・・・わ・・私にも・・・理解できないんです・・・」

何かの糸が切れたのか乱太郎の瞳からは大粒の涙が零れていた。

大木はその涙を舌で拭い取り瞼にキスを落とし濡れたままの乱太郎の頭や背中を大きな手で子供をあやす様に撫でた。

あやしながらも大木は乱太郎のおでこ、瞼、目元、頬そして唇等にキスを落としていた。

落ち着いてきた乱太郎に大木は微笑んで言った。

「ずぶ濡れだな乱太郎。風呂が沸いているから入れ。」

乱太郎を抱きしめていたため大木も濡れていた。それを気にしてか乱太郎はなかなかお風呂場には行かなかった。

「先生も濡れてる・・・」

上目づかいに濡れた瞳で見つめられ大木は思わず目を逸らした。

「ええから入ってこい。」

乱太郎は大木の言葉に従いお風呂場へ向かった。

それを確認した大木は呟き苦笑した。

「・・・まじでやべぇな・・・我慢できんぞ。」

湯船に浸かって乱太郎は大木にキスされた場所を順番に触りながら考えていた。

『大木先生のキスってなんであんなに安らぐんだろう・・・気持ちいいし。でも　やっぱりなんで私にキスするのかわかんないよ。

キスは数回貰ったけど・・・私言葉は一度も貰ってないもの・・・』

乱太郎がお風呂からあがると寝着が用意されていた。それは大木の物で乱太郎には少しというかだいぶ大きかった。

「・・・大木先生の匂いがする・・・」

寝着を着た乱太郎は大木に包まれている様な感覚にドキドキしていた。そこに大木が現れた。

「乱太郎出たのか？」

「はい。」

「次ワシが入るんであっちでゆっくりしてろ。」

大木は乱太郎の横を何食わぬ顔で通り過ぎていった。

内心は理性を押さえるのがやっとだった。強引に抱いてもいいのだか乱太郎は何かあったみたいな様子だし話を聞く事が先決と大木は考えていた。

二人の夜は始まったばかりです。

終了