唯一の真意

空がすごく高くて蒼い色に吸い込まれそうなほどの青天下での出来事だ。

木の上で枝に座り木の葉で太陽の光を遮るように忍術学園卒業生の潮江文次郎は、

のんびりとしていた。

「ん？」

ふと視線を遠くにやると見知った子が女に捕まりなにやら渡されている。

「・・・宜しくお願いします。」

「いいけど、後々のことまでは責任持てないからね。」

「いいんです。」

「そう、じゃ渡しとく。」

「ありがとうございます。」

唇の動きで言葉を読み取ろうとしてみたがあまりに遠いので諦めた。

文次郎の眸には、くノ一であろう女が去って緩やかなな風が乱太郎の緋色の髪を

揺らしたのが映っていた。

文次郎の眸に映された乱太郎の姿がしだいに大きくなってくる。

文次郎がいる木の下まで来た乱太郎は、顔を空に向けた。否、違う。乱太郎の視

線は、空ではなく真っ直ぐに文次郎に向けられていた。

「待たせてしまいましたか？」

相変わらずのふんわりとした笑顔に文次郎の頬の筋肉も緩む。

「乱太郎に会えるんだ。待ち時間さえも心地良いさ。」

文次郎が学園長に用があるというのは本当・・・だけどそれよりも大事なのは乱

太郎に会う事、触れる事なのだ。

「いつもの場所にいる。」

文次郎は、次の教室に向おうとしていた乱太郎を捕まえてそう告げた。

いつもの場所、それは現在二人がいる場所である。文次郎が在学中から二人はよ

くここで会っていた。どちらかが会いたくなって約束もせずこの場所にきても必

ず会えた。だけど、それは在学中での話だ。フリーの忍者となった文次郎は、そ

れなりに忙しくなかなかこの場所、即ち学園に来れないでいた。

「相変わらずだな、乱太郎。」

文次郎は、一瞬で乱太郎の傍に降り力強い腕で優しく乱太郎を包み込んだ。眸は、

乱太郎の手の中に手紙に向いている。乱太郎の表情は、わからないといった感じ

で首を傾げている。

「その手の中の物はなんだ？」

「これですか？」

「あぁ。」

「受け取るつもりなかったんですけど、受け取らないとあの子ここまで一緒に来

る勢いだったから。」

乱太郎の実力なら完全に撒けただろうに、そうしないのは乱太郎の優しさなのだ

ろう。

「私と文次郎さんが此処にいる時は、誰にも此処に来て欲しくなかったんです。」

それでも受け取るのを目の当たりにするのは、やはり面白くないものだ。

「そんなもん破り捨てろ。」

文次郎の言葉に乱太郎は、キョトンしたがすぐに笑顔になった。

「駄目ですよ。」

その笑顔に弱い文次郎だが今回は、譲れない。

「渡せ、俺が破る。」

「だから、駄目です。受け取ったからには、私はちゃんときり丸に渡さないとい

けないんです。」

「きり丸？」

乱太郎の言葉で文次郎は、乱太郎からそれを奪おうとした手を止めた。

「はい、わかってもらえましたか？きり丸絶対受け取らないんですよ。」

私に渡されても困るんですけどね、と乱太郎は苦笑する。きり丸が乱太郎からだ

と受け取るということを女の子たちは知っているのだ。

「生真面目に乱太郎は、きり丸に渡しているというわけだ。」

「受け取ってもらわないと私が困ります。」

文次郎は、少しばかりきり丸を不憫に思った。

「今回はそうでも、乱太郎も相変わらずなんだろう？」

文次郎は、口元を乱太郎の耳に寄せ囁いた。囁いた息がこそばゆいのか乱太郎が

少し身を捩る。

「相変わらずってなんですか？私は、きり丸と違って全然ですよ。」

本心からそう思っているのだろう。男女問わず乱太郎は慕われている。その数は、

歳を追うごとに増加している。その事実を乱太郎は、わかっていない。その鈍感

さに文次郎は、乱太郎に気づかれぬ様に溜息を吐いた。

「私のことをそういう対象で見てくれるのは、文次郎さんだけですよ。それに・

・・文次郎さん以外の想いなんて考えられないです。」

これまた本心だからどうしようもない。

「・・・そうか。まぁ俺は、乱太郎が好きだ。勿論こういう対象でな。」

いつからか乱太郎は、文次郎が言葉にする『好き』にだけ反応するようになった。

それ以来、乱太郎の恋愛対象は文次郎しかいない。どうやら他の『好き』という

言葉では、胸はときめかないらしい。唯一文次郎の囁く言葉だけが乱太郎の胸を

締め付けるのだ。

いつのまにやら乱太郎の腕は文次郎の首に絡まり文次郎の口が乱太郎の口を塞い

でいた。文次郎が乱太郎の唇を舌で舐めるとそれが合図かのように乱太郎の唇は、

薄く開かれる。その僅かな隙間に文次郎は、自分の舌を差し込み乱太郎の中に侵

入を果たす。

「・・・んぁ・・・」

僅かに漏れる乱太郎の吐息が文次郎の耳に心地良く響く。深い口付けに乱太郎は、

呼吸がままならずそれでいて与えられる刺激に応えながら今この瞬間を受け止め

る。文次郎の口付けは何度もらっても慣れることなく甘く乱太郎の身体からは力

が抜けていく。自分の体重を支えられなくなっていく乱太郎の腰に腕を廻し文次

郎は、苦もなく乱太郎を支えている。成長しているといっても同年代の子たちと

比較すると乱太郎は小さい。フリーの忍者となりより逞しい大人の身体をもつ文

次郎の胸に乱太郎はすっぽりとはまるのだ。

「んぅ・・・んっ・・・」

乱太郎の口内を傍若無人に貪りながら文次郎の手は、服の上からお尻の狭間を撫

で上げていた。ゆっくりと下から上へと擦るたびに乱太郎の身体は、揺れる。声

をあげたい衝動に駆られるのだが舌は文次郎の舌に絡めとられており乱太郎の声

は、文次郎の喉の奥に飲み込まれていく。

いつまでも続くかと思われた口付けも文次郎の唇が乱太郎の唇から離れたことで

終了した。文次郎は、自分の唇の廻りにべったりとついた自分と乱太郎のどちら

のともいえない唾液を厭らしくゆっくりと舌先で乱太郎に魅せつけるように舐め

取った。それを見ていた乱太郎は、途端に頬を紅く染め上げ文次郎から視線をそ

らした。

「ふぁ・・・ぁん」

そんな乱太郎の可愛らしい態度に文次郎は、口の端を上げ乱太郎の露になってい

る首筋に舌を這わせた。そして、鎖骨をなぞりながら首の根元を強く吸い上げた。

「・・文次郎さぁ・・ん」

「どうした、乱太郎。」

文次郎に支えられてやっと立っていられる乱太郎は、自分を見上げてくる文次郎

を非難の眸で見た。その眸は、潤んでいてどうとっても文次郎を煽る効果しかな

い。文次郎は、それを楽しむように口を大きく開け吸っていた首元に柔らかく噛

み付いた。

「やぁ・・・ん・・・ソコは・・・だめぇ・・・っていつも・・・んぅ」

乱太郎の非難の言葉を最後まで言わさず文次郎は、今度は軽く口付けた。

「・・・文次郎さんのいぢわるぅ」

「可愛いお前が悪い、乱太郎。」

低い声で甘く囁かれるだけで乱太郎の腰は砕けるように力を無くす。

「ひゃっん」

「くくっ、相変わらず感度がいいな。」

お尻の狭間を擦っていた手が掠るように乱太郎の主張に触れたのだ。

「文次郎さん・・・が・・」

「俺が？」

「・・・文次郎さんがいけないんです。」

「どうして？」

「だぁ・・って、文次郎さんに触れられるだけで・・・私」

「何、ちゃんと言えって。」

傍にいるだけで

見られているだけで

触れられているだけで

「私・・・感じちゃう」

文次郎の胸に顔を埋めて消えそうな声でそう口にした乱太郎の身体は、白い肌

に映えるように薄っすらと桜色だ。

「そうか。」

乱太郎の着物を肌蹴させ文次郎は、露になった肩にそっと口付けた。

それだけで乱太郎の身体は、ビクリと揺れる。

緩やかな風が静かに木々の葉を揺らしている。

「文次郎さん。」

なかなか会えないけれど

「文次郎さん。」

それは、とても寂しいけれど

「文次郎さん。」

私には、あなただけです。

だから、

もっと、

あなたを私に刻んで下さい。

遠く、離れていても

あなたの温もりを忘れないくらい感じさせて。

「文次郎さん、大好き。」

二人の頭上では、青天の空が拡がっている。

「乱太郎。」

なかなか傍にいてやれないが

「乱太郎。」

それは、かなり不本意なことだが

「乱太郎。」

俺には、お前だけだ。

だから、

もっと、

俺に縋りつけ。

遠く、離れていても、

お前の温もりを忘れないように感じさせろ。

「乱太郎、お前が愛しい。」

文次郎の広い胸板が好きで乱太郎は、必ず情事の後その胸の上に頭を乗せなが

ら擦る。そして、文次郎は、乱太郎の髪の毛を梳くのである。髪にも神経が通

っているかの如く乱太郎は、文次郎の指にうっとりと身を任せる。

空は、高く青天のまま緩やかな風が二人を通り過ぎていく。

終了

むつさんからのリクエストでした。

逢引です。逢引なのです（しつこいって）

『さっぱり甘い文乱』というリクだったのに・・・

見事に玉砕している気がします：汗

しかも、微エロだし：苦笑

乱ちゃんが文次郎さんを好きで

文次郎さんが乱ちゃんを想う

って感じにしたかったんですけどね：遠い目

むつさんに楽しんでいただければ幸いです。

リクエストありがとうございました。