雪中花
僕はその時に気がついたんだ。
この想いは
友達に対する想いなんかじゃないって。
その日はとても寒くて雪も積もってた。僕はただ何も無い真っ白な世界に魅入っていた。
まるでなにもかもが白くて其処に何も存在していない様な錯覚が心地良かった。
でも突然その白い世界に紅い花が咲いた。その花は飛んだり跳ねたりして白い世界をまったく違う世界に変えたんだ。
しかし唐突にその花は動きを止めた。僕は慌ててその花の名を呼びながら駆け寄った。
「乱太郎。」
乱太郎は身体全体を雪の中に投げ出し真っ直ぐに冷たい空を・・・透ける青を見ていた。
僕の問いかけにも反応してくれなかった。それはまるで僕自身が其処にいることを否定されているみたいでくやしかった。
「乱太郎風邪引くぞ。」
動かない乱太郎。
「・・・乱太郎。」
そのまま雪の中に消えてしまうのかと・・・・・思った。そんなわけがあるはずないのだけれど・・・。
でも僕は不安になって必死になって呼んだんだ。
紅い花の名を・・・。
何度も
幾度も
呼んだんだ。
「ちゃんと聞こえてるよ。」
雪の中から起き上がった乱太郎は笑っていた。
「どうしたのさ兵太夫。なんか余裕ないね？」
「乱太郎がさっさっと返事しないからだろ。」
僕はその時少し涙目になっていたかもしれない。それはきっと冷たい空気が鼻にきたからだ。
―――――ドサッ
乱太郎はまた雪に倒れ込んだ。僕はゆっくりと顔を覗き込んだ。
「風邪引くぞ。」
「先刻も聞いた。」
「雪に倒れ込んで楽しいか？」
「・・・楽しいよ。」
「うわぁ・・・っと。」
乱太郎が僕の腕を引っ張って僕の身体も雪に・・・
否
花に倒れ込んだ。
僕の下で咲いたままの花は“クスクス”と笑っていた。
「楽しいか？」
「楽しいよ。」
「そうか。」
僕は花の横に倒れ込んだ。
そして手の平に体温を感じた。
僕たちは手を繋いだまま真っ直ぐに冷たい空を・・・透ける青を見た。
僕が強く手を握ると乱太郎も握り返してくれた。
「温かい。」
「そうだね・・・温かい。」
それから永い間ずっとそのままで白い世界の中にいた。
手の平から違う世界に繋がっている喜びが僕の中で増幅していくのを感じた。
あぁ・・・
そうか・・・
僕は
好きなんだ。
この紅い花が――――乱太郎が好きなんだ。
後日僕と乱太郎は仲良く風邪を引いた。
僕の想いは
まだ僕だけの胸の中―――――
終了
平成15年１月17日