言葉にできない思い
――――― 好きだ。
この一言がいえない。
言ってしまえたらどんなに楽だろう。
俺の気持ちは お前に受けとめて貰える？
早朝、俺は横で寝ている２人を起こさないように新聞配達に出かけた。
――― 数時間後
「ただいま。」
部屋に帰って小声で呟いた。そうするといつも必ず小声で返事が返ってくる。
「おかえり。まだ少し時間あるから眠りなよ。時間がきたら起こすから。」
そこには、そう言ってまだ少し眠そうな顔で優しく微笑む乱太郎がいる。
「ああ。」
俺たちのこの朝の会話は、一年の頃から今までずっと続いている。
『乱太郎にとって俺は特別なのか？』
そう誤解してしまいそうになる。次に起きた時、それは俺の思い違いだと思い知らされる。
「きり丸、しんべヱ朝だよ。もう起きないと朝食たべられないよ。」
寝起きの悪いしんべヱに乱太郎は世話をやいている。
そう乱太郎は誰にでも優しいんだ。俺だけに優しいんじゃない。それに
「もう！しんべヱしゃきっとして、ほらきり丸もぼーとしてないで手を動かしてよ！！」
結構すぐ怒るし人の言うこともあんまり聞かない。でも、本人に言うと怒るけど可愛いんだよなこれが。
さらに、困った事に本人は自分が人を惹きつける要素を持っている事に気がついてない。
そんな乱太郎に俺の思いを告げても受けとめて貰える自信が俺にはない。
自信ないというよりも今の関係が壊れるのが怖いのかもしれない。
だから、この思いは俺の胸の奥にしまい込んでる。
それなのに、『他の奴に渡したくない。』と思う俺は卑怯かな？
乱太郎に近づく女は追い払いたいし、男なら近づけさせたくもない。
俺の思いは何処に行くのだろう？
「何してるのきり丸？もう行くよ。」
今はまだこの思いを言葉に出来ない、言えない・・だなんて。
終了
平成12年12月9日