賭け

乱太郎は　時々裏山の大きな木の上で休んでいる。その日も葉と葉の間から差す日差しにウトウトしていた。

もう少しで眠りにつくという所で邪魔がはいった。きり丸と見たことのない女の子。

『どうせまた小銭の方がいいと断るのだろう。』

乱太郎は、そう考えながらその会話を聞いていた。

「きり丸君、特定の子いないんでしょう。私と付き合って。」

ストレートな告白に聞いている乱太郎の方が照れてしまう。しかし、次のきり丸の答えを聞いて乱太郎は木から落ちそうになった。

「わりいけど、俺むちゃくちゃ惚れてる奴いるぜ。」

小銭一筋のきり丸に好きな人がいる。これはもう驚きです。驚愕です。

「どうせ小銭でしょう。」

「違うよ。人だよ。ひ・と。」

「誰よ。」

「ひ・み・つ。」

「なによそれ。私を振るんだから名前ぐらい教えてよ。」

「ん～それは無理。他に誰が聞いてるかわかんねぇもんな。」

きり丸はチラッと木の上を見た。気づかれている。ちゃんと乱太郎は気配を消しているはずなのに。

女の子は乱太郎に気づいていない。なので当然辺りを見回しても誰もいない。

「バカにしないで。」

その言葉とともにきり丸の頬に女の子の平手打ちが決まった。

女の子が居なくなるのを待って乱太郎は木から降りてきた。

少しの間沈黙が続いた。先に口を開いたのは乱太郎だった。

「きりちゃん、私に気がついてたの？」

「ああ」

きり丸が答える。きり丸は気がついていたのではない。知っていたのだ。乱太郎がどこにいるのか。

だから、ここへ来た。自分の言葉に乱太郎がどう感じるか知りたかった。あの女の子には悪いけど利用させてもらった。

まぁ、きり丸は悪いなんてこれぽっちも思ってもないだろう。

「きりちゃん、ほっぺた痛くない？」

乱太郎がきり丸の少し赤くなっている頬に手をあてる。

「たいしたことない。」

きり丸は乱太郎の手に自分の手を重ねて目を瞑った。

乱太郎は意を決してきり丸に聞いた。

「きり丸の好きな人って、私も知ってる人？」

きり丸はゆっくりと目を開き乱太郎を見つめた。

「さぁ・・・・な。」

「なにそれ。私にも言えないの？」

乱太郎の顔が少し悲しそうにゆがんだ。乱太郎は悲しかった。

いつも一緒にいたのにきり丸に好きな人がいただなんて気がつきもしなかった。

「時期がきたら教えるよ。」

きり丸はもっと、もっともっともっと乱太郎に興味を持たせたかった。自分の事で頭をいっぱいにして欲しかった。

そうこれは賭けなのだ。乱太郎の気持ちを知る為の。

この賭けが吉と出るか凶とでるかはまた別のお話し。

終了

平成13年7月20日