不意打ち：浦乱
古寺の今にも崩れ落ちそうな階段に腰かけ三年は組の浦風藤内は、遠くを見ていた。
別段、なにかを考えるのではなく遠くを見ているだけだった。
古寺の床下では、ガタゴトと音がしている。
その音が段々と浦風が座っている階段の方に近づいて来た。
ふと浦風が地面に視線を向けた。
床下からひょこっと淡い緋色が出てきて浦風の方に顔を向けた。
「あっ、浦風先輩さぼってる」
「休憩してるだけだって」
四つん這いで床下から出てきたのは、一年は組の猪名寺乱太郎だった。
「なぁ」
「・・・はい？」
「なんでお前がここにいるの？」
乱太郎は、キョトンとした顔を浦風に向けた。
「ここは、作法委員の担当だろ」
「あっ、あぁ」
乱太郎は、浦風の言いたいことを理解してふにゃぁと笑った。
「保健委員は、怪我人が出た時のために待機なんですよ」
浦風は、立ち上がり階段から乱太郎のいる地面へと飛び降りた。
「そうか、それはつまらないな」
「でしょう。だから、仕掛ける方で参加させてもらってるんです」
浦風は懐から手拭いを取り出し、埃まみれの乱太郎の顔を拭いた。
「んっ、ありがとうございます」
ふんわりと微笑む乱太郎の頭を浦風は、撫でた。
そして、浦風はゆっくりと乱太郎に顔を近づけた。
「乱太郎？」
床下の奥から一年は組の笹山兵太夫が乱太郎を呼ぶ声が聞こえた。
乱太郎は、その声に気づけず動けないでいた。
「乱太郎、兵太夫が呼んでるよ」
浦風は、なんでもなかったように笑っていた。
ゆっくりと触れたかどうかさえ曖昧な唇同士の触れ合いに乱太郎は、顔を地面に向けていた。
「乱太郎？」
「あっ、ごめん兵太夫。今いくから」
乱太郎は、再度床下に潜ろうとした時だ。
「乱太郎」
浦風に呼び止められ乱太郎は、動きを止めた。
「床下が暗くてよかったな」
乱太郎は、その意味がわからなくて少しだけ顔を浦風に向けた。
「顔、真っ赤だぞ」
その言葉に乱太郎は、更に熱を上昇させ思わず立ち上がろうとしてしまった。
ゴンッ
場所が場所だ。
乱太郎は、おもいっきり頭を打った。
「あぁ〜あ、大丈夫か、乱太郎」
「い・・っ、はぁ・・・浦風先輩」
「なんだ」
浦風は、しゃがみこんで床下にいる乱太郎を見ていた。
じっと、じぃ〜っと見ているものだから乱太郎は、なにも言えなくなってしまった。
「乱太郎？」
「浦風先輩も早く作業に戻った方がいいですよ」
「あぁ、そうする」
そうして乱太郎は、床下へと消えていった。
「本当に可愛いなぁ」
浦風は、乱太郎を見送った後に立ち上がり、先ほど見ていた遠くを再度見た。
先程とは違い浦風は、乱太郎を想いながら遠くを見ていた。
「さてと、作業に戻るか」
そして浦風は、古寺の中に消えていった。
終了
平成22年3月7日