雪降る夜に

皆が、寝静まった夜更け忍術学園の塀に一つの影が伸びた。

乱太郎は身動ぎながら見知った気配に重い瞼を開けた。

「・・・利吉さん？」

「正解。」

乱太郎が瞼を開ければそこには逢いたくてたまらなかった利吉の顔があった。

利吉は、乱太郎の身体を布団ごと抱き上げた。

「寒い？」

利吉の言葉に乱太郎は、利吉の胸に頬を摺り寄せ首を振った。

「いいえ。利吉さんが傍にいるから。」

「本当に可愛いこと言ってくれるね。」

利吉は寝ている二人に気づかれないようにソッと部屋を抜け出し、そして、学園を抜け出した。

　

利吉は、寒いからと乱太郎の頭から布団をかぶせていた。

移動中に当たる風はかなりの冷たさだ。

利吉の足が止まった。

もぞもぞと乱太郎が布団の中で動き顔を出した。

「ほら、乱太郎見てごらん。」

―――――ハラハラ

―――――チラチラ

乱太郎は、目を輝かせて空を見上げる。

「うわぁ〜・・・雪だ。」

布団からソッと手を出せば、乱太郎の手に雪が舞い降り静かに消えた。

「どうしても、一緒に見たかったんだ。」

空を見上げる利吉の顔を乱太郎は切なげに見つめた。

そして、利吉の頬にゆっくりと自分の手をあてた。

「利吉さん、冷たい。」

乱太郎は、自分だけが温もりを与えられていることに利吉の優しさを感じていた。

それと同時に利吉にも温もりを与えたかった。

「私はいいんだよ。」

「でも・・・。」

「大丈夫。乱太郎の温もりが私を温めてくれている。」

利吉は、軽く乱太郎の額に口付けた。

空には、月が浮かんでいる。

暗闇の中、月明かりに照らされて白い雪が幻想的に二人に舞い降りている。

―――――チラチラ

―――――ハラハラ

乱太郎が、利吉の顔を見上げると、その遠くから雪が生まれていた。

「この雪のように・・・いつもあなたの傍に飛んでいけたらいいのに。」

乱太郎は、ゆっくりと利吉の唇に自分の唇を近づけ触れるだけの口付けをした。

「・・・でも、溶けるのは嫌ですね。」

唇を離しながら、白い息を吐きながら、乱太郎は儚く微笑んだ。

「大丈夫。私が、乱太郎を溶かすわけがないだろう。」

利吉は、腕の中の乱太郎を強く抱き締めながら空を見上げた。

空には、月が浮かんでいる。

月明かりと雪明かりに照らされて、利吉と乱太郎の二つの影が重なり合って伸びていた。

―――――ハラハラ

―――――チラチラ

利吉が乱太郎の顔を見つめると、その向こうで雪が消えていっていた。

「この雪のように・・・いっそのこと乱太郎の中に溶け込めたらいいのに。」

利吉は、唐突に乱太郎の唇を自分の唇で塞ぎ激しく、そして、優しく口付けた。

「・・・でも、それじゃ乱太郎の顔が見られないか。」

唇を離しながら、白い息を吐きながら、利吉は微笑みながら乱太郎の頬を撫でた。

乱太郎が微笑む。

利吉も微笑む。

　

今、この瞬間に一緒にいられることが幸せで、それと同時に離れなくてはならない現実に二人は・・・微笑む。

離れていても大丈夫

寂しくない・・・というのは嘘だけど、大丈夫

離れていても大丈夫

温かいから・・・この温もりは消えない、大丈夫

二人は、見つめあい空を見上げた。

―――――チラチラ

―――――ハラハラ

二人の想いが雪に染み込む。

利吉の想いが、乱太郎に溶ける。

乱太郎の想いが、利吉に溶ける。

想いが溶け合い混ざり合う。

あぁ、なんて温かい。

冷たい空気が二人を包み込み、冷たい雪が二人に降り注ぐ。

利吉は、乱太郎の身体をより強く抱き締めた。

「そろそろ戻ろうか。風邪を引くといけない。」

乱太郎は、利吉の胸に顔を摺り寄せ頷いた。

　

雪は、止む事無く二人に降り注がれている。

明日になれば、また二人は離れ離れ。

「利吉さん。」

「ん？」

「逢いにきてくれてありがとうございます。」

乱太郎の言葉に利吉は、仄かに頬を染めながら照れ笑い。

「私が逢いたかったからね。」

「それでも・・・ありがとうございます。私も逢いたかったんです。」

乱太郎は、恥ずかしいのか利吉の胸に顔を埋めたままだ。利吉は、来る時よりも足を遅らせた。

もう少しだけ

この温かさを感じていたい

二人の想いは、雪にしみこむ。そして、溶け往く。

溶け往く想いは、地に帰り、再び現れる。

二人の想いは、二人の身に染み込む。そして、溶け往く。

現れて溶けて消えては現れる想い。

溶けた想いは、温かさとなり二人を包み込む。

利吉の想いが、乱太郎に溶ける。

乱太郎の想いが、利吉に溶ける。

　

想いが溶け合い混ざり合う。

そうして、雪降る夜が明けていく。

終了