酔い止め

木陰に一人の男がうずくまって・・・・否、倒れていた。

「・・・気持ち悪い。」

人通りも少なく通る人も忙しいのか気づかないのか過ぎ去って行く。

とうとう男は気を失った。

潮の匂い

波の音

それを敏感に感じ取り男は奥に沈んでいた意識を浮上させた。

「海！！！・・・・じゃないよな。」

男が辺りを見回すとやはりそこは陸だった。

木から差す木漏れ日が心地よい風に揺れているのに男の心情は憂鬱だった。

とっさに起き上がらせた身体からまた力が抜けていく。

「ん？」

男は不思議に思った。

確か自分は地面に倒れたはずである。

硬いはずの地面がなぜか柔らかい。

男は視線を上に向けた瞬間また勢いよく起き上がった。

「ら・・・・乱太郎さん。」

男が振り返るとそこには乱太郎がちょこんと座っていた。

「鬼蜘蛛丸さん、もう大丈夫なんですか？」

乱太郎の存在に驚いて鬼蜘蛛丸は陸酔いどころではなくなっていた。

鬼蜘蛛丸は座っている乱太郎は上から下までマジマジと見てしまった。

「乱太郎さん・・・その格好は／／／」

鬼蜘蛛丸の言葉に乱太郎は自分の今の格好を見た。

「あぁこれぇ。海で遊んでたら濡れちゃって。」

乱太郎の格好、それは下帯だけの身体に軽く上着を羽織っただけのものだった。

夏の子供特有の格好といえばそれまでだが鬼蜘蛛丸は目のやり場に困った。

ふと乱太郎の手に海で拾ったであろう貝殻が握られているのに気がついた。

「・・・波の音。」

ボソッと呟いたその一言に乱太郎は満開の笑顔を見せた。

「ちゃんと聞こえてたんですね。」

乱太郎は貝殻を自分の耳にあてその奥から聞こえる先程まで遊んでいた波の音を聞いた。

「鬼蜘蛛丸さん倒れてるから驚きましたよ。」

倒れている鬼蜘蛛丸を見つけた時乱太郎は急いで駆け寄った。

陸酔いで倒れたのだと頭では理解している。

でも、海の上の鬼蜘蛛丸からは想像もつかない程の弱々しさに心配になる。

「乱太郎さん。」

大丈夫ですか？と鬼蜘蛛丸の顔を覗き込む乱太郎に鬼蜘蛛丸は愛おしさを感じる。

鬼蜘蛛丸は乱太郎を安心させるように大きな手で乱太郎の頭を撫でた。

そして鬼蜘蛛丸は乱太郎の身体から潮が噴いていることに気がついた。

「鬼蜘蛛丸さん？」

自分の身体を見つめる鬼蜘蛛丸に乱太郎は首を傾げる。

「潮の匂いは乱太郎さんからだったんですね。」

乱太郎の身体で塩となった固形物を鬼蜘蛛丸は軽く叩いて落としていく。

「鬼蜘蛛丸さんからも潮の匂いがする。」

鬼蜘蛛丸の行為に身を任せ乱太郎は鬼蜘蛛丸の首に腕を回し“クンッ”と匂いを嗅いだ。

「海賊ですから。」

鬼蜘蛛丸は小さく笑いながら乱太郎の身体の塩を細かいところまで見つけだし叩き落としていく。

「鬼蜘蛛丸さんから海を感じるのに本人は陸酔いするなんて変な感じですね。」

「陸には揺れがないですから。」

「そういうものなんですか。」

乱太郎は鬼蜘蛛丸の肩辺りでクスクスと笑っている。

そんな乱太郎の身体を自分から離し鬼蜘蛛丸は乱太郎に服を着せ始めた。

「私から潮の匂いしなくなっても大丈夫なんですか？」

どこか寂しげに名残惜しげにそして心配そうに乱太郎は鬼蜘蛛丸を見つめた。

「私の陸酔いより・・・」

あなたのそんな姿を他の人に見られたくない・・・・鬼蜘蛛丸は後半を言葉に出来なかった。

「陸酔いより？」

そんな鬼蜘蛛丸の心中を察することもなく乱太郎は続きを促す。

「さぁ出来上がりましたよ。」

「・・・ありがとうございます。」

応えてくれない鬼蜘蛛丸に乱太郎はギュウッと抱きついた。

「応えてくれるまで離れませんから。」

―――――ミーンミンミンミン

二人に影を落としている木の上からは蝉の声が響いている。

汗を薄く肌に浮かべながらも乱太郎は鬼蜘蛛丸の応えを待つ。

鬼蜘蛛丸はこの状態が続くなら応えなくてもいいかなんて想っていた。

しかし自分に抱きつき上目使いで見つめてくる乱太郎に自然と口が開いた。

「私の陸酔いよりも・・・乱太郎さんが大事なんですよ。」

そう言ってもらえるとわかっていたのかいなかったのか理解できないが乱太郎はふんわりと微笑んだ。

そして鬼蜘蛛丸から離れようとしたが出来なかった。

「鬼蜘蛛丸さん。」

今度は鬼蜘蛛丸が乱太郎を抱きしめていたのだ。

「あなたといると陸酔いしないみたいです。」

その言葉は乱太郎の笑みをより柔らかく深いものへと変えた。

「それじゃ鬼蜘蛛丸さんが陸に用がある時は傍にいますね。」

すぐに駆けつけますからと乱太郎が決意を固めるがごとく拳を強く握った。

本当はいつも傍にいてもらいたいのだが

本当はいつも傍にいたいのだが

私は海賊だから

私は忍者（忍たま）だから

その拳を大きな手で握り締め鬼蜘蛛丸はそっと口元に近づけた。

「お願いします。」

「はい。」

心地良い返事をした乱太郎は自分を抱きしめる鬼蜘蛛丸よりも強く鬼蜘蛛丸を抱きしめた。

後日・・・乱太郎がいないとやはり陸酔いする鬼蜘蛛丸が時々目撃されている。

終了

和虫さんからのリクエストでした。

なんだか甘いような気がします。

潮の話なのに甘いってどうよ（笑）

途中なんだか話が裏風味になりそうでやばかったです。

書いたことの無いCPだったのでいろいろと迷いましたが書いてて本当に楽しかったです。

年下のそれも子供の乱太郎に敬語を使う鬼蜘蛛丸さんが好きです。

そして鬼蜘蛛丸さんの大きな逞しい胸に乱ちゃんが甘えるのを想像するとかなり萌えです（照）

あぁなんか変なあとがきで申し訳ないです。

それでは和虫さんに楽しんでいただけたら幸いです。

リクエストありがとうございました。