月と散歩

乱太郎はすこぶる機嫌が良かった。

もうすぐやってくる寒い季節の戯れかすこし肌寒い風が吹く。

しかし、空は雲ひとつ無い晴天だ。

乱太郎の腕の中には先程裏山で摘んできたススキが揺れている。

乱太郎は顔を空に向け眩しい光を手で遮った。

「本当にいい天気♪」

乱太郎が学園の門に到着した時ちょうど団蔵も帰って来た。

「よぉ、乱太郎。またたくさん摘んできたな。」

団蔵は片手を挙げそのままその手を乱太郎の頬に寄せた。

「ん？」

「あぁ・・・ここ泥で汚れてた。」

団蔵が親指の腹で拭い取った泥を乱太郎に見せた。

「ありがとう。」

ふんわりと微笑まれ団蔵は思わず目を背けてしまった。

「あぁ、・・・早く行こうぜ。皆待ってる。」

「・・・そうだね。団蔵はお団子買いに行ってたんだよね。」

「たくさん買ってきたぜ。なんせしんべェがいるからな。」

乱太郎が団蔵の持っている団子に目をやると本当にたくさん買ってきていた。

「すご・・・。」

乱太郎が驚いた団子の量はお月見が始まって数分で極僅かになってしまった。

その原因のしんべェはもう食べられないと満腹のお腹を摩りながら寝転がっている。

「あれでも足りなかったか。」

団蔵はもうちょっと買っておけば良かったと頭をかいた。

「でも、皆にちゃんといきわたってるみたいだから。」

「来年は倍買いだな。」

「そうだね。」

飾り立てたススキとススキの間に満月が白く鮮やかに存在を主張している。

団蔵がその月に見惚れいてると先程まで隣りにいたはずの乱太郎がいつの間にかいなくなっていた。

辺りを見回してみるがそこに乱太郎の影さえも見つからない。

「どこ行ったんだ。」

団蔵は立ち上がりその場を離れた。級友たちは月などそっちのけで騒いでいる。

少し離れた塀の上に人影を見つけた。

その瞳がやけに愛しそうに月を写していたので団蔵はなんだか胸が痛んだ。

そう声をかけるのを躊躇うくらいに・・・。

「やっと来てくれた。」

乱太郎の言葉に団蔵は途惑うが差し出された手に自分の手を重ねた。

そして、二人は学園の外へと出た。

「乱太郎？」

「月ってさぁ、どんなに歩いてもちゃんとついて来るんだよ。」

二人は手を繋ぎ月をつれてゆっくりと歩いた。

「なぁ、乱太郎。」

「何ぃ。」

片手にススキを握り、片手に団蔵の手を握り乱太郎はついてくる月を確かめながら歩く。

「先刻の言葉どういう意味？」

「先刻？」

「『やっと来てくれた』って。」

「あぁ、だって団蔵来るのが遅いんだもん。」

今更ながら団蔵はあることに気がついた。

「もしかして、乱太郎なんか怒ってない？」

「怒ってないよ。」

乱太郎は一向に団蔵ではなく月ばかりを見ている。これはもう完全に怒っている。

「ならなんでこっちを向かない？俺を見ない？」

乱太郎は立ち止まりまるで吸い込まれるかのように月を仰いだ。団蔵は握っている手に力を込める。

「私お月様が好き。」

「あぁ知ってる。」

乱太郎が月を眺めるのが好きなことはよく見かけてるので団蔵も知っている。

月の出ている夜、時折散歩に出かけて行くのも見かける。

再度乱太郎は足を前に進め出した。団蔵もつられて動かし出す。

「でも・・・」

「でも？」

団蔵が聞き返すとそこでようやく乱太郎は団蔵の方に顔を向けた。

そして、団蔵の瞳を指差した。

「団蔵の目に映ってるお月様はちょっと嫌いかな。」

そう言って乱太郎はまた足を進め出した・・・が動けなかった。

団蔵が乱太郎の手を握ったままその場を動かないでいるからだ。

「団蔵？」

乱太郎の問いかけに我に返ったのか団蔵は手で口を押させた。その顔はほんのり紅い。

「なんで？」

「だって、月だけを見て私を見てくれてないわけでしょう。」

学園の門で目を背けられたことに乱太郎は多少なりとも傷ついていた。

「それは・・・己惚れてもいいの・・・か？」

団蔵が持っている乱太郎が見ている月に抱く気持ちを乱太郎も持っていたのだ。

「いいと想うよ。」

乱太郎はふんわりと笑った。今度は目を背けず団蔵はその笑顔を受け取った。

二人は指を絡め手を繋いでいる。そんな二人に月もちゃんとついてきている。

乱太郎はずっと待っていたのだ。

自分が月を眺めている時

散歩に出かける時

いつも団蔵の気配を感じていた。

声をかけてくれるのを来てくれるのをずっと待っていたのだ。

団蔵はいつも躊躇っていた。

乱太郎が月を眺めている時

散歩に出かけようとしている時

なぜか近寄ることさえも出来なかった。

声をかけたかったのに傍にいき一緒にいたいと想っていたのに躊躇っていた。

乱太郎はいつも愛しそうに月を瞳に写している。

「なんでそんな風に月を見る？」

団蔵がそう語りかければ乱太郎は頬に朱を走らせ照れ笑いをしながら答えた。

「どんな風かよくわかんないけど。いつも団蔵のことを想ってるだけだよ。」

その答えに今度は団蔵の頬に朱が走った。

「あ〜・・・そうか。」

「そうだよ。」

今の二人の瞳にはお互いが映っている。

そんな二人に月は黙ってついてきている。

終了

むつさんからのリクエストでした。

むにょ〜かなり遅くなってしまって申し訳ないです。

お月見の時期から遠くかけ離れてしまいました：汗

しかも、内容的にお月見ではないような・・・。

お互い気にはなっているけどそれ以上でも以下でもない関係から抜け出す感じで書いてみました。

むつさんに気に入っていただければ幸いです。

リクエストありがとうございました。