月と花びら

乱太郎は夜道を歩いていた。

月灯りが乱太郎の足元を照らしている。

そしてはらはらと桜の花びらが風に乗り乱太郎に降りそそぐ様に舞っていた。

乱太郎は小高い丘にあるこの辺でも随分と古い大きな桜の木へと向かっていた。

そして其処へ辿り着いた時　乱太郎は自分の腕を広げ桜の木を抱き締めた。

あの人はとても優秀なフリ―の忍者だから一つの場所で留まることはほとんどない。

ちゃんと判ってるんだ。だから今回も笑顔で見送った。いつもちゃんと私の元へと戻って来てくれるから。

「いってらっしゃい。怪我などしないよう気をつけて下さいね。」

でもね。

やっぱりね。

時々・・・時々だよ。

離れていると不安になるの。

いつも離れなくてはいけない時　あの人は私に体温を分けてくれる。

あの人の体温は心地良くて　その総てを逃がしたくなくて私はいつも縋るように求めてしまう。

それでもね。

永い刻が過ぎてしまうと　その体温が私の源が枯れてしまう様な感覚に陥ってしまうの。

本当はね。

これはあの人には秘密だよ。

本当はね・・・どんなに短い刻でも離れていたくないの。

私はあの人のことが大好き。

この言葉は恥ずかしいからあの人にはなかなか言えないんだけど“愛している”の。

会えない日々は寂しくて不安で傍にいて欲しいの。

―――――怪我などしていませんか

―――――ちゃんと寝ていますか

―――――大丈夫だとは思いますが無茶をなさらないで下さい

―――――会いたいです

―――――早くこの目であなたを見たい

―――――そしてあなたの体温をこの身で感じたい

だから一刻も早く私の元へと帰って来て下さい。

乱太郎は目を閉じ桜の木をギュウっと抱き締め呟いた。

「利吉さん。」

その瞬間いきなりの突風が桜の木を吹き抜けた。

乱太郎が驚いて顔を上げると大量の桜の花びらが舞い散っていた。

その光景に乱太郎はまるで桜の花びらが月へと吸い寄せられているような錯覚に囚われた。

利吉の仕事は早くて完璧だと上々の評判である。

そして今利吉は夜の月灯りの中ものすごい速さで移動していた。

最近会う人皆になぜそんなに早くて完璧に仕事をこなせるのかと聞かれることがある。

そんなの会いたいからに決まってるだろ。

私のことを待っていてくれる愛しいあの子の元へ私は早く帰りたいんだよ。

だからこそ失敗は許されない。

失敗なんてして余計な時間をかけるわけにはいかないんだよ。

利吉がより速く走ろうとしたその時　どこからか突風が吹きその風は利吉を包んだ。

利吉は驚いて立ち止まり両腕で顔を覆った。

風が弱まった頃　ひらりと何かが利吉の手の甲に触れた。

利吉がソッと目を開けて夜空を見上げると其処にはちょうど月が輝いていた。

そしてちょうど月から零れ落ちてくるように桜の花びらがひらひらと舞い降りてきていた。

一枚の花びらをソッと手の中に閉じ込めてみる。

『利吉さん』

確かに聞こえるその声に利吉は辺りを見回した。

気のせいか・・・あの子が乱太郎がこんなところにいるはずがない。

きっと会いたいと想う私の幻聴だ。

『利吉さん会いたい』

しかしこれは？・・・聞こえているのではなく私の心に響いているのか。

利吉は思わず月に両手を伸ばし舞い降りてくる桜の花びらを乱太郎の想いを抱き締めるように包みこんだ。

乱太郎・・・私も会いたいよ。

―――――風邪をひいていないかい

―――――泣いてはいないかい

―――――寂しくないかい

―――――会いたいんだ

―――――早くこの目で乱太郎を捕らえたい

―――――そして私の腕の中に閉じ込めたい

どんなに離れる前に身体を重ねても私には足りない。

乱太郎は温かくて心地良くていつでも傍にいて欲しい・・・そして傍にいたい。

しかしそれは仕事上無理な話・・・まぁ近い将来は隣にいてもらう予定だが。

あの子は我慢強い子だから本音をなかなか言葉にしてくれない。

でもちゃんとわかっているよ。

だって私がこんなに寂しくて不安で会いたくて堪らないんだからね。

きっとあの子もそう感じている。

だから私は早く確実に仕事を終わらせるんだ。

だから待っていてもうすぐあなたの元へ帰るから。

乱太郎“愛してる”という言葉に納まらないほどお前に恋焦がれているんだ。

利吉は手の中に存在している桜の花びらに唇を落としそれを風に乗せた。

月に吸い込まれていた花びらが重力には逆らえないとでも囁くように今度は舞い降りてきた。

『乱太郎』

乱太郎の心に大好きな声が響く。

そして乱太郎に向かって一枚の花びらが緩やかに舞い降りてきた。

乱太郎が両手を差し出すとまるで吸い込まれるようにその中に収まった。

乱太郎は無意識にその花びらに唇を寄せた。

そしてなぜだかわからないけど

「もうすぐ利吉さんが帰って来る」

乱太郎はそう感じた。

終了

利太郎さんからのリクエストでした。

ちゃんとリクに応えられているのでしょうか・・・不安です。

絶対利吉さんは乱太郎のためだけに仕事を早く完璧に終らせてると私は想うわけですよ。

乱ちゃん良い子だから「お仕事よりも私の傍にいて下さい」なんて悦な台詞言えないだろうなぁ。

だから早く利吉さんの隣に並ぶ忍者にならないとね。

ちなみに利吉さんの帰りを健気に待つ乱ちゃんは超艶可愛いので周りが放っておかないみたいです。

でも乱ちゃんには利吉さんしか見えてないのでほえほえと皆の気持ちに気づかず受け流すのでしたぁ。

それでは本当にリクエストありがとうございました。