雷鳴

―ゴロゴロゴロ・・・・・

「一雨きそう・・・急いで帰ろう。」

乱太郎は山道を一人急ぎ足で歩いていた。

学園長に頼まれたお使い帰りだ。

急ぎ足の乱太郎を追い越していく様に雨が降ってきた。

歩いていた乱太郎の足が小走りになった　ちょうどその時

“キュ〜ン・・・”

乱太郎の耳に　寂しげな声が聞こえた。

その声は雨の音に掻き消されながらも　何かを主張していた。

乱太郎はその声がする方へと　足を向けた。

声がはっきりと聞こえだした所まで来た乱太郎が見たモノは・・・

「・・・狼・・・。」

そう乱太郎の目の前にいたのは　まぎれもなく狼だった。

狼は崖下と乱太郎を交互に見ていた。

“キュ〜ン・・・”

あの声がまた聞こえた。どうやら　この狼ではないみたいだ。

乱太郎は崖の下を見た。

そこには崖の中間ぐらいに生えている木に　引っ掛かっている子狼がいた。

乱太郎の横で親であろう狼がジッと見ていた。

「集団で行動するはずの狼がなんで単独行動してんの・・・。」

そう言って溜息をつきながら　

こうジッと見られては助けないわけにもいかず乱太郎は自分に縄を縛りつけ

そして逆側の縄の端を木にくくりつけた。

雨に打たれながら　乱太郎は子狼がいる木まで無事下りることが出来た。

しかし　子狼は怯えているのか　乱太郎に対して牙をむいた。

“ぐるぅる〜”

乱太郎は優しく手を差し伸べた。

「痛っ・・・。」

指を噛まれた・・・乱太郎は何もせずただ優しく声をかけた。

「大丈夫だよ。私が助けるから。」

乱太郎の気持ちが伝わったのか　子狼は自分が噛んだ指から出ている血を“ペロッ”と舐めた。

そして　乱太郎の腕に大人しくおさまった。

後は乱太郎が無事崖の上に行ければいいだけである。

しかし　雨が激しくなり　片手に子狼を抱いている状態では　それは難しかった。

縄を掴む手に　雨が邪魔をして力が入らない。

崖の少しのでっぱりに　足を引っ掛けるが滑ってしまう。

「大丈夫だからね。」

乱太郎は子狼にそう言いながら　内心は“どうしよう”と思っていた・・・

その時　縄が上へ上へと引っ張られだした。

乱太郎が縄を引っ張られながら　崖の上へと登りきった時　其処にいたのは　山田利吉だった。

「利吉さんどうして・・・此処に？」

乱太郎は子狼を親狼の横に降ろして利吉に近づいた。

「どうしたもこうしたも・・・その狼が私をジッと見て　

まるでついて来いと言っているみたいだったから。来てみれば　乱太郎が崖の下にいるし。」

乱太郎は狼親子の方を見た。乱太郎と利吉をジッと見つめていた親狼がいきなり吠えた。

“ワォ〜ン・・・・・・”

そして身体を反転させ　二人について来いと言わんばかりに　顔を“クイッ”と上げた。

乱太郎を利吉は顔を見合わせ　狼の後をついて行った。

其処からほんの少し歩いた所で　狼の歩みは止まり　その見つめる先には大きな洞穴があった。

狼は其処に行けと言わんばかりに　また顔を“クイッ”と上げた。

乱太郎と利吉は　その洞穴に入ると　案外広く　雨を凌ぐにはいい感じであった。

二人は洞穴から狼がいた所を見た・・・・・しかし　其処にはもう狼親子はいなかった。

「でも　良かったぁ。利吉さんが通ってくれて。」

「あぁ近くまできたから学園に挨拶に寄ろうと思ってな。」

利吉が手際よく　そこらに落ちていた湿っていない枝を集め火をつけた。

「雷が鳴っていたから　雨に遭わないうちにと思って急いだんだが　結局雨に遭ってな。」

「そして　狼に会ったんですね。」

「そういうことだ。」

暖をとる乱太郎を利吉はジッ〜と見ていた。

「乱太郎　指を怪我してるのか？」

乱太郎は　利吉の問いに自分が初めて指を舐めている事に気がついた。

乱太郎は口から指を抜いて　笑って言った。

「大丈夫ですよ。かすり傷ですから。」

利吉はそう言う乱太郎の手をとり　指を見た。

確かに傷は深くはないが　血が出ていた。

「えっ？な・・利吉さん。」

乱太郎は驚いた。

利吉はさっきまで乱太郎が咥えていた指を咥えたのだ。

「はい。消毒終了。」

利吉は数分間　乱太郎の指（の傷）を舐めた。

乱太郎の指からはもう血は出ていなかった。

「利吉さん・・・。」

「ん？」

「えっ・・・と　あの・・・ありがとございました。」

「（クスッ）どういたしまして。」

利吉は乱太郎の指についた自分の唾液を拭き取り　軽く包帯を巻いた。

その時利吉はもう一つの傷を見つけた。

「乱太郎ここも怪我してるじゃないか。」

「えっ？・・・っ痛・・・。」

利吉は乱太郎の鎖骨の下ぐらいを指で撫でた。

其処には蚯蚓腫れができていて　薄っすらと血が滲んでいた。

「子狼を抱いた時　爪でも引っかかったのかな。」

そう言って笑う乱太郎に　利吉は真剣な顔で言った。

「乱太郎あまり無茶はするなよ。」

「してないですよ。」

乱太郎がふんわりと笑う。その笑顔を見て　利吉に別の不安がよぎる。

「・・・心配でたまらないよ。」

「大丈夫ですよ。山田先生に鍛えられてますから。」

「そういう意味じゃなくて・・・・」

―ゴロゴロゴロ・・・・・ピカ―・・・

利吉の言葉は雷鳴によって掻き消された。

外を見ると　雨雲は雷鳴を連れて　遠い空へと　過ぎていた。

「・・・これから夏が来ますね。」

「そうだな。」

近くて遠い距離が近づくまで　もう少し時間がかかりそうです。

「乱太郎　此処も消毒しとかないとな。」

そう言って　利吉は乱太郎の鎖骨あたりを舐めた。

その行為には邪な気持ちがあったのだが　それに乱太郎が気がつくはずもなく素直に傷を舐められてました。

―遠くから雷鳴に似た狼の遠吠えが聞こえた。

終了

senaさんからのリクエストでした。

ここでの乱太郎はナウシカの気分です。

子狼がテトって感じです（なんじゃそりゃ）

利吉さんがなんか変かも・・・片思い中です。

誰にでも優しい乱太郎に不安になってるんですよ。

リクエストに応えられているか不安ですが　どうぞ受け取ってください。