君と僕、あなたと私

雷蔵は会えればいいのにと忍たま長屋の庭先を歩いていた。

「・・・綺麗だよね。」

案の定乱太郎の声が聞こえ雷蔵は声がする方へと足を向けた。

乱太郎の姿が見えたと同時にきり丸の姿も瞳に捉えた。

どうやら乱太郎がきり丸の傷んだ毛先を切り揃えてあげているらしい。

「本当きり丸の髪ってサラサラしてて綺麗。」

乱太郎がうっとりするように呟ききり丸の髪を指で梳いていた。

いつもは縛られている髪の毛が解かれ日にあたっている。

日を受け止めているきり丸の黒髪は本当に綺麗だった。

「僕の髪とは比較にもならないか。」

雷蔵は自分の髪に指を絡めてみた。柔らかくもなくむしろ硬い質感だ。

乱太郎は大切なものを扱うようにきり丸の髪を丁寧に扱っている。

「・・・なんか嫌だな。」

雷蔵は段々と気分が悪くなっていた。

今乱太郎の瞳にはきり丸の髪しか映っていない。

ここでその瞳に髪だけではなくてきり丸も映し出しているのなら更に雷蔵は非常に気分が悪くなっていただろう。

「本当に綺麗。私きり丸の髪好きだな。」

しかしその言葉が雷蔵の心に重く圧し掛かった。

「私きり丸（の髪）好きだな。」

どこをどう聞けばそんな風に聞こえるのか雷蔵は打ちひしがれていた。

「乱太郎はきり丸が好きなのか・・・。」

自分がこんな固い髪をしているからかなどと頭が混乱しているのか雷蔵は少々パニクっていた。

乱太郎はきり丸の髪を切り揃え一通りその感触を楽しみ結い終えた。

「ありがとな乱太郎。」

「どういたしまして。」

二人は本当に仲が良い。

今更どうこう言うつもりはないが雷蔵にして見れば乱太郎の隣にいるのは乱太郎の瞳に映るのは自分であって欲しいと想っていた。

「じゃ俺バイトに行ってくるな。」

「うん。気をつけていってらっしゃい。」

他の人にそんな笑顔を向けて欲しくないとも想う。

「乱太郎。」

きり丸を見送る小さな背中に雷蔵は声をかけた。

乱太郎が振り向く一瞬でさえ永く感じられて雷蔵はもどかしかった。

「雷蔵先輩。」

先刻の笑顔よりもより深い笑顔で自分の名を呼ばれ抱きついてくる可愛い子。

「きり丸の髪を切ってあげてたのかい。」

「はい。きり丸の髪私のと違って黒くて真っ直ぐでとても綺麗だから好きなんです。」

頼んで切らせてもらっていると照れたように笑う乱太郎が愛しいのに・・・雷蔵はなんとも言えない気持ちになった。

「雷蔵先輩？」

いつもの穏やかな雰囲気の無い雷蔵に乱太郎は首を傾げた。

「・・・乱太郎君はきり丸君の髪が好きなんだ。」

「はい。」

「それってきり丸君が好きってこと？」

雷蔵の言っている言葉の意味が理解出来ず乱太郎は更に首を傾げた。

「乱太郎君はきり丸君の髪が綺麗だから僕よりもきり丸君が好きなんだ。」

遠くに目をやり雷蔵は深い溜息を吐いた。

その言葉でようやく雷蔵の言っていることを理解した乱太郎は大きい瞳をより大きくして驚いた。

どうやら雷蔵はとんでもない勘違いをしている。

乱太郎は雷蔵の袖を引っ張り雷蔵に自分の目線に合わすようにしゃがんでもらった。

「乱太郎君。」

雷蔵の悲しそうな瞳が乱太郎を悪いことをしたような気持ちにさせる。

乱太郎はいきなり雷蔵の首に自分の腕を廻しギュウっと抱きついた。

「確かに私はきり丸が好きです。」

やっぱりと雷蔵が乱太郎を自分から離そうとする前に乱太郎は小さな声で雷蔵にだけ聞かせるように呟いた。

「でもそれは皆と一緒の好きで・・・雷蔵先輩に対する特別な好きとは違うんです。」

雷蔵は乱太郎の顔が見たくて自分から離そうとするが乱太郎は恥ずかしいのか雷蔵にしがみついていた。

雷蔵はそんな乱太郎を強く抱き締めた。そして抱き上げ自分の膝の上に乱太郎を乗せた。

そして乱太郎の赤茶けたやわらかい髪に唇を落とし更に抱き締めた。

「乱太郎君。―――僕は君が好きだよ。」

その言葉に乱太郎はゆっくりと顔を上げた。雷蔵は紅くふっくらとした頬に舌を滑らせニッコリと笑った。

その笑顔に乱太郎もつられて笑顔になる。

「雷蔵先輩。―――私はあなたが好きです。」

乱太郎は雷蔵の髪に手を伸ばし掴んだ。そしてその髪に自分の唇を落とした。

「私きり丸の髪も好きだけど雷蔵先輩の髪が一番好きなんですよ。」

実は雷蔵の髪は固い質感だが傷んではなく指も滑らかに通るのだ。

雷蔵は乱太郎の手から自分の髪を外させ自分の頬にあてさせた。

「乱太郎君。僕は君が一番好きだ。」

つまり雷蔵は自分の髪が乱太郎の一番だとまたもや勘違いしているらしい。

その勘違いに今度は即座に気がついて乱太郎は笑ってしまった。

「乱太郎？」

「ハハハごめんなさい。嬉しいんです。」

雷蔵の一番が自分だということが嬉しくて雷蔵が自分の髪にさえ嫉妬しているのが面白くて乱太郎は笑いながら雷蔵に擦り寄った。

「雷蔵先輩。私はあなたが一番好きなんですよ。」

「そうか。」

「そうなんです。」

“知りませんでしたか”と乱太郎が笑えば“知っていたよ”と雷蔵が笑った。

終了

祐さんからのリクエストでした。

雷蔵さんかなりの勘違い野郎になっている（汗）

幸せ？甘々？ん〜どうなんだろう。

雷蔵さんになら乱太郎は臆面もなく“好き”ってはっきり言ってくれそうです。

やっぱり二人の雰囲気が似ているからかな。

リクエスト本当にありがとうございました。

祐さんに楽しんでいただければ幸いです。