華びら
休日。
外出届をだしてまで出かける気にもなれず、友人の誘いを断り学園をふらふらと歩き回っていて。
匂いに誘われて、辿り着いたのは桜の木の下。
よく見かける桜とは違い、その桜は葉っぱが無かった。
樹が薄い桃色をまとって、それ自体が葉のように。
僅かな風にも耐えられないとばかりに枝を揺らし、花をふりそそぐその桜をうっとりと見上げる。
ひらひらひらひら
絶え間なく散り落ちる花びらの向こうに透けて見える青は、先ほどまで見ていたものより青く見えた。
舞い落ちる桜の花びらに、昔誰かから聞いた事をやってみようと思う。
それから少したって。
面倒くさいという理由から、今日も学園でのんびりしていた兵太夫が見つけた、不思議な光景。
「何してるんだ？」
「何してるように見える？」
かけられた声に振り向くこともなく問い返す。
「・・・・・・手を伸ばしてる」
「そう？」
実際、乱太郎は手を伸ばしていた。手のひらを広げて上に向けて、桜がふりそそぐ中じっとしている。
「こうやってて、桜を捕まえることが出来たらいいことあるんだって。でもなかなか難しくて」
たくさん降ってくるのに、手をかすることはあってもけして手のひらに落ちることはない。
落ちそうになっても、風にのって飛んでいってしまう。
「兵太夫もやる？」
「・・・ああ」
二人並んで手を高く掲げて。
それでも、花びらは手の上には落ちない。
「・・・落ちないね」
「落ちないな」
「いいことないのかな？」
ほんの少し沈んだ声に考えて。
半歩下がって乱太郎の後ろに回る。
「兵太夫？」
「こうすれば少しは何とかなるだろ」
二人の手のひらをくっつけて。
さほど体格の違わない二人だから、ぺったりと体をくっつけて いないと結構大変な姿勢だけど。
二人分の大きさになった手のひらに、ようやく一片桜が落ちる。
「わ、できた！」
掲げていた手とは反対の手で花びらを取ろうとして、花の場所に。
「・・・真ん中だね」
花びらが落ちた場所は、二人の手のひらがくっついたところ、ちょうど真ん中。
「乱太郎、取れよ」
真ん中だから、手を離すわけにはいかなくて。
つまり、体もぴったりくっついたままで。
兵太夫の声と共にでた息は、乱太郎の耳元にかかる。
くすぐったさに身を震わせながらも。
「でも、兵太夫にいいことなくなっちゃうよ」
曰く、手のひらに落ちた桜の花びらは持っていないといけないらしい。
半分にちぎっちゃうわけにもいかないし。
どうしようと考えているから。
「・・・俺はこれをもらうから」
え、と怪訝そうな声を出した乱太郎にかまわず、兵太夫は顔をずらすと。
乱太郎の髪の上についていた桜をそっと唇で摘む。
しみこんだのか、周りのせいなのか。桜の匂いがした。
「へ、兵太夫？」
「髪についてた」
手を傾けて乱太郎の手のひらに花びらを移して。
ぱっと振り向いた目に映ったのは。
花びらを唇から取る兵太夫の姿。
かぁっと顔が熱くなる。
真っ赤になって俯いてしまった乱太郎の様子に。
「本当だったな」
そうとだけ残して兵太夫は行ってしまった。
「本当・・・？」
不思議そうに呟いて、手のひらに残された花びらを摘み上げて。
さっきの兵太夫のしぐさを思い出してしまって。
真っ赤になりながらも、おずおずとその花びらに口付けた。
その夜、兵太夫を見るたびに真っ赤になる乱太郎がいたとかいなかったとか。
ＥＮＤ
【貴夜しのさんのお言葉】
え〜っと・・・とろけるように甘いですか？
なんかすっごく微妙な気がするんですが（汗）
乱ちゃんは握っちゃってぐちゃぐちゃになりそうですが、兵太夫は密かに押し花とかにしてそう。
んで、時々見て思い出してたりとか。
・・・・・・なんだかなぁ・・・。
ちなみに、何度かやったことがありますが（暇人）、私は一度も桜を捕まえられませんでした。
結構難しかったりしますので、暇があればお試し下さい。
ただ、本当にいいことがあるかどうかは知りません（笑）
５５００hitを取られたモーント・リヒト様へ。
【私（リヒト）の言葉】
はいちゃんと甘いですvvv
兵ちゃん自分を見て真っ赤になってる乱ちゃん見て“ふっ”って笑ってそう。
唇で花びらを摘むってかなり萌えです。
きっと乱ちゃんは兵ちゃんの唇を見る度に桜の花びらを思い出すのでしょう。
そして桜の花びらを見る度に兵ちゃん（の唇）を思い出すのでしょう。
兵ちゃんは乱ちゃんの可愛い顔を思い出すんでしょうねぇ。
貴夜しのさん本当に素適なSSをありがとうございました。
ちゃんとしたキリ番とれて嬉しかったです。