勝者
「乱太郎！飯食いにいこうぜ」
「あ、うん。いこいこ」
よっしゃ、と心の中で思っていると。
「あ、俺も行く」
俺と反対側、つまり乱太郎の右隣にくっついたあいつ。
「な・・・」
「みんなで食べた方がおいしいもんね。皆行こうよ！」
文句を言おうとして、乱太郎の明るい声に遮られて。
結局二人っきりで楽しく食事（計画）は失敗した。
乱太郎は人気があって。
最近では全く知らない先輩達も声をかけようとしているようで。
そういう奴ら（敬意なんて払ってられるか）を蹴散らすために、俺は“乱太郎の親友”という
立場を使っていた。
もちろん、いつか親友じゃなくて恋人になりたいからそれは一石二鳥にも三鳥にもなって。
（俺が好きな言葉だ）
順調にいっていたのに、それなのに。
あいつが、あいつが！！
全部台無しにしてくれやがる！！
計画通りなら二人っきりで楽しいはずの食事も。
なぜかあの場にいた全員でにぎやかだし。（泣）
乱太郎の鈍さもさることながら、やっぱり一番腹が立つのはあいつ！
「どうしかしたの？さっきから全然食べてないけど」
食欲より怒りが優先してしまって、気がつけば俺のほうを覗き込む乱太郎の顔。
やっぱり可愛い・・・。
「嫌いなもの・・・はないよね。もしかしておなかが痛いとか？」
あぁ・・・おまけにやさしいし、俺のことよくわかってる・・・。
「あ〜大丈夫大丈夫。ちょっと考え事してただけだし」
「本当に？」
心配そうな顔をなおもする乱太郎に、思わず抱き締めたくなって。
しかし、手が無意識に伸びようとした瞬間。
「乱太郎、あのさ・・・」
反対側からかかった声に振り向く乱太郎。
もちろん、俺とは反対側の乱太郎の隣をとっているのはあいつで。
むか
「・・・で・・・だろ？」
「え〜そんなことないよ」
わざとらしく内緒話。
聞き耳立てようにも騒がしい食堂ではうまく聞こえなくて。
むかむか
「・・・だから、さ・・・」
「う〜ん・・・そうなのかな・・・」
ちらりと意味ありげに俺を見る視線。
むかむかむかむか
「ごちそうさま！・・・ちょっとこい！」
叩きつけるようにはしを置く。
急いで食べて、味なんか覚えちゃいない。
あいつの腕を掴んでずんずんと歩く。
「乱太郎、悪いけど後片付け頼むな」
ひきずられながらもにこやかなその態度に、俺の怒りはどんどん上がっていって。
「あの二人っていつも仲いいよね〜」
後で聞いたら、乱太郎はそんなふうに言っていたらしい・・・（涙）
「んで、なに？」
「邪魔すんなよ！」
「乱太郎はお前のじゃないだろ？」
う。
少しだけ頭が冷える。
「乱太郎は鈍いからな〜。それなりにやらないといつまでもお友達で終わりそうだし」
「それは・・・確かに」
この前“俺のこと好き？”って聞いたら“うん。皆好きだよ”って言ってたし。
あの時はかなりへこんだ・・・。
「勝負しようぜ」
「勝負？」
「乱太郎と恋仲になった方が勝ち。負けたら二度と乱太郎に言い寄らない」
自信満々に言うあいつにムカッときて。
「いいぜ、絶対に負けないからな！」
「こっちもな」
余裕の笑みを浮かべるあいつ。
・・・絶対に負けるもんか！！
「でね、二人ってすごく仲がいいんだよ」
「・・・そ、そうか」
話を聞く限り全くそうは思えなかったが、墓穴を掘りたくはないので頷く。
乱太郎の鈍さには自分も苦労していたが、今は鈍くて本当によかったと思う。
「乱太郎はその二人が好き？」
「うん。皆好きだよ」
にこやかに、何のためらいもなく言う乱太郎。
「・・・じゃあ、私は？」
途端に真っ赤になって、きょろきょろとあたりを見回しだす。
ここは私の部屋で。誰もいないとわかっているはずなのにするその仕草が可愛らしくて。
「乱太郎、私は？」
「・・・スキ・・・」
（渡せないな、絶対に）
紅く色付いた唇を何度も味わいながらそう思った。
ＥＮＤ
貴夜しのさんのHPで代理リクを募集されていたので嬉々としてリクさせていただきました。
嬉しいなぁ。乱太郎の鈍さが可愛いと言わずしてなんと言うのか。
ふふ乱太郎しか名前出てないですけどかなり楽しませていただきましたよ。
あの子はきり丸だし
もう一人のあの子は兵太夫で
そしてあの人は当然土井半助なんですよ。
皆さんわかりました？
兵ちゃん好きなんで嬉しかったんですけどあの子たち二人の勝負ってなんか悲しいですね。
だって乱ちゃんってば半助さんしか見えてないし（笑）
半助さんは絶対乱ちゃんを手離すことしないだろうしね。
貴夜しのさん本当に素適な小説をありがとうございました。