その一言が

忍術学園の敷地内でコソコソと隠れながらウロウロしている人がいた。

その人を見つけた乱太郎は、とりあえずジッと見てみた。

その視線に気がついたのだろう。

振り向いたその人は、乱太郎と目が合い固まってしまった。

見つけたらいけなかったのかな、と思いながら見つけたものはしょうがないので乱太郎は、その人に歩み寄った。

「尊奈門さん」

そう、そこにいたのはタソガレドキ城の忍者である諸泉尊奈門だったのだ。

乱太郎に名を呼ばれ、尊奈門は、思わず顔を背けた。

しかし乱太郎は、回り込み尊奈門の顔を覗き込んだ。

「土井先生に会いに来たんですか？」

「・・・違う」

乱太郎は、尊奈門の返答に眼鏡の奥の翡翠色の眸を瞬かせながらキョトンとした表情を見せた。

尊奈門が忍術学園に来るのは、いつも土井半助に戦いを挑む時だからだ。

「隙を見て攻撃しようと思ってたんじゃないんですか？」

「そんな卑怯なことするか」

「でも忍者だし」

「個人的な戦いでそんなことしないんだ」

乱太郎は、尊奈門のその言葉に、一瞬キョトンとしたが、すぐに穏やかな笑みを見せた。

「・・・なんだよ」

「ふふっ、尊奈門さんって本当に真面目ですよねぇ」

「うるさい」

「私は、そういうとこ好きですよ」

それは乱太郎にとっては、何気ない一言だったが尊奈門には衝撃的な一言だった。

「そ、そうか」

鼻先を人差し指で掻きながら尊奈門は、少し照れているようだったが乱太郎がそれに気がつくことはない。

乱太郎は、少し考えて尊奈門の手を引いた。

「おっ、おい！」

尊奈門は、慌てるが乱太郎の小さくて柔らかい手が尊奈門の手を握り引っ張るので、抵抗しなかった。

二人が着いた場所は、医務室だった。

乱太郎は、尊奈門の手を握りしめたまま医務室に入ったので尊奈門も一緒に医務室に足を踏み入れた。

「昆奈門さんならここにいますよ」

乱太郎は、得意気に尊奈門を昆奈門の前に連れて行った。

「・・・組頭、どうしてここに？」

タソガレドキ忍の組頭である雑渡昆奈門は、乱太郎と尊奈門が手を繋いでいるのをみてニヤニヤしていた。

「あれっ、尊奈門さん、昆奈門さんを迎えに来たんじゃないんですか？」

「・・・違う」

乱太郎は、頭を左右に揺らして考えた。しかし、答えは、出てこない。

「姿が見えないと思ったら、やっぱり此処に来てたんだねぇ」

「昆奈門さんは、尊奈門さんを捜しに来たんですか？」

「違うよ」

「ふぇ？」

首を傾げる乱太郎を余所に昆奈門は、言葉を続けた。

「見物に来ただけだよ」

「なんのですか？」

昆奈門は、尊奈門をチラッと片目で見た。

「ちょっとは、進んだのかな」

「組頭、こ、これは違います」

尊奈門は、まだ繋がっていた乱太郎の手を離した。

「お前ねぇ、少しは素直になればぁ」

昆奈門は、ふぅっと溜息を吐きながら乱太郎の頭を撫でた。

「乱太郎」

「はい？」

「尊奈門はね」

「はい」

「君に「組頭！」

尊奈門は、慌てて昆奈門の言葉を遮った。

「尊奈門さん？」

乱太郎は、不思議そうに尊奈門を見ていた。

『君に会いに来た』

その一言が言えない尊奈門に再度溜息を吐いた。

「まぁわたしが言うことではないね」

尊奈門は、一人項垂れている。

「さてと、そろそろ帰るかねぇ。行くよ尊奈門」

「・・・はい」

「もう帰っちゃうんですかぁ」

「わたしたちも色々忙しいんでね」

二人が医務室を出ようとした時、乱太郎が尊奈門を引き留めた。

「尊奈門さん」

「なんだ」

「今度は、私に会いに来てくださいね」

昆奈門は、軽く口笛を吹いた。

「な、なにを言って」

慌てる尊奈門が面白い。

「そうしたら一人で忍術学園の中をウロウロしなくてもいいでしょう」

名案だ、とばかりに乱太郎は、満面の笑みを見せている。

即ち、乱太郎は、尊奈門に忍術学園に来る口実を提案したというわけだ。

「・・・考えとく」

「はい」

乱太郎は、笑顔で二人を見送った。

帰り道、昆奈門は、尊奈門に対してまた溜息を吐いた。

「素直になれない上に乱太郎君に先に言われるなんてねぇ」

「あいつは、そんな深いこと考えてないですよ」

「でも良かったね」

「はい？」

「だって、嫌われてないってことだよね。脈あるんだから素直になればいいのにねぇ」

そう言われても、なかなか素直になれない諸泉尊奈門なのでした。

終了

平成24月1月28日

イオンさんからのリクエストでした。

雑渡さんが目立ってしまった上に諸→乱になってしまいました^^;

さぁ、乱ちゃんが自覚するのは、いつなのか！（続くわけではないですよ(^_^;)

イオンさんに楽しんでいただければ嬉しいです。

アンケ−トに答えて下さりありがとうございました。