秘密の花園

乱太郎もはや三年になり立派な忍者になるために日々頑張っている。

「団蔵」

団蔵の背中に抱きつきじゃれ合う様子は、まだまだ子供だ。

しかし、土井は見逃さなかった。

抱きつかれた団蔵がじゃれ合いながらも頬をほんのりと赤らめていた。

乱太郎の胸がぴったりと団蔵の背中にくっついているのも一因だろう。

「乱太郎」

「はい」

「今夜私の部屋に来なさい」

「はぁい」

土井は、頭を抱えながらその場を後にした。

夜になり乱太郎の声が聞こえた。

「土井先生」

「乱太郎か。入りなさい」

「失礼します」

乱太郎は、背中を向けている土井の真正面に正座で座った。

「さて乱太郎」

「はい」

土井は、身体の向きを変えて乱太郎と向かい合うように座りなおした。

「もう皆と一緒にお風呂は入っていないな」

「はい。あの時から入ってませんよ」

乱太郎の指す『あの時』それは、かなり衝撃的な出来事だった。

乱太郎たちが忍術学園に入学してから数ヶ月が過ぎた頃のことだ。

お風呂は、各自で入るのが日常だ。

その日は、一年は組全員でお風呂に入ることになった。

皆が次々と服を脱いでいた。

勿論乱太郎も脱いでいた。

「なに乱太郎？」

「じっと見られると恥ずかしいものがあるんだけど」

乱太郎は、自分の左右にいたきり丸と兵太夫の裸をマジマジと見つめていたのだ。

「ずっと前から思ってたんだけどね」

「なになに？」

後ろにいた金吾が会話に入ってきた。

「皆の股についてるのなに？」

どうして私にはないのかなぁ、と乱太郎は自分の股を見ながら首を傾げている。

「「「「「「「「「「はい？」」」」」」」」」」

乱太郎の発言に会話に入っていなかった者も全員振り返った。

そして皆の視線は、乱太郎の股に集中した。

「な、なに？」

乱太郎は、なんだか恥ずかしくなって慌てて自分の股を隠した。

「ない」

「ないよな」

「よね」

「これって」

「どゆこと」

顔を見合わせる皆に冷静に口を開いたのは、庄左エ門だった。

「つまり乱太郎は、男ではないってことだよ、ね」

「「「「「「「「「え〜！！！」」」」」」」」」

全員で叫んだ瞬間、伊助と三治郎が乱太郎の身体を寝間着で包み込んだ。

そして、その勢いのまま土井の部屋になだれ込んだのである。

「「「「「「「「「「土井先生！」」」」」」」」」」

全員がほとんど裸の状態でいきなり駆け込んで来たのだ。

土井が驚くのも無理がないだろう。

「ちょ、ちょっと落ち着けお前たち。どうした？」

少し落ち着きを取り戻していた庄左エ門が前に出てきた。

「土井先生」

「庄左エ門、一体どうしたんだ？」

「これ見ていただけますか」

そう言って全員が前に押し出したのは、乱太郎だった。

「乱太郎がどうかしたのか？」

虎若としんべヱが乱太郎に羽織らせていた寝間着をゆっくりと取った。

「どこか怪我でも・・・！」

裸の乱太郎を頭から順次視線を落としていった土井は、股のところで視線を止めた。

「・・・ない」

土井は、そこを凝視してしまった。

「土井先生、そんなに見られると恥ずかしい」

その言葉で他のは組の良い子達が慌てて乱太郎に寝間着を着させた。

とりあえず山田も呼び全員で輪になった。

「率直に聞くが乱太郎」

「はい」

「お前女の子だったのか」

身体を見る限り乱太郎は、完璧女の子だ。

「よくわからないです」

乱太郎がよくわからないのも仕方がないことだった。

乱太郎は、忍術学園に入学するまで両親以外の人とあまり接したことがなかったのだ。

「くノ一に入学する予定だったとか？」

「両親には、ここだと言われて来ました」

乱太郎の名からして両親は、どうやら乱太郎を男の子として忍者にしたかったのだろう。

「今はいいかもしれんが、上にあがるにつれて差が出てくるだろう」

山田と土井は視線を合わせながら小さな溜息を吐いた。

「私、ここにいちゃいけないんですか？」

乱太郎は、今にも泣き出しそうな声を出した。

「黙っていればいいと思います」

そう提案したのは、庄左エ門だった。

「そうだよねぇ」

それに賛同したのは、喜三太だ。

他の皆もうんうんと頷いている。

「しかしだなぁ」

山田の渋った声に乱太郎の眸が潤む。

「私、皆と一緒に卒業したいです」

自分が女の子だという自覚があまりない乱太郎は、山田と土井にはっきりと言った。

「私が女の子っていうのは、今日はっきりわかりました。ばれないように頑張ります」

「俺たちも協力します」

一年は組全員が一気団結して乱太郎を囲んだ。

「「「「「「「「「「「山田先生、土井先生」」」」」」」」」」」

それから一応学園長には報告して、乱太郎は皆と一緒に忍術学園にいられることになったのだ。

土井は、その時のことを思い出して苦笑した。

「あの時は、本当に驚いたな」

「私も驚きましたよ。私って女の子だったんですねぇ」

穏やかに笑う乱太郎に土井は、溜息を吐いた。

「土井先生、溜息吐くと幸せ逃げちゃいますよ」

「吐くと楽になることもあるんだ」

「そうなんですか」

「そうなんだ」

土井は、気を取り直して乱太郎にサラシを差し出した。

「なんですか？」

「乱太郎寝間着を脱ぎなさい」

土井の言葉に乱太郎は、素直に従う。

その素直さに土井は、頭が痛くなりそうだった。

「乱太郎、お前他の奴に言われても、そう簡単に脱ぐのか？」

「脱ぎませんよ」

乱太郎の細い肩が現れ白い肌が露わになる。

「土井先生にだけです」

「それならいい」

土井は、上半身裸になった乱太郎の胸に手を伸ばした。

「少し膨らんできたな」

「はい」

「これを巻いて胸を隠すんだよ」

そう言うと土井は、乱太郎の胸にサラシを手際よく巻いた。

「おぉ」

「きつくないか？」

「はい」

「自分で巻けるようにしないとな」

乱太郎に寝間着を着させ土井は乱太郎から離れた。

「土井先生は、巻いてくれないんですか？」

乱太郎は、両手をついて土井に近づき下から土井を覗き込んだ。

「いつも私が巻けるとは限らないだろう」

「んぅ〜じゃ、きり丸やしんべヱに頼もうかなぁ」

「駄目だ」

「駄目なんですか？」

「乱太郎、お前はもう少し謹みを持ちなさい」

「謹み？」

三年にもなって恥じらいのない乱太郎に土井は、更に頭を抱える。

いっそのこと抱いてしまえば女の自覚が出るかもしれない。

しかし、乱太郎はまだ月経もきていない。

「とにかくだ。自分で巻けるように努力しなさい」

「土井先生がいる時は、土井先生が巻いてくれますか？」

「あぁ」

乱太郎は、それで納得したのか元に位置に戻った。

サラシで胸を押さえ乱太郎は、可愛らしい少年に一応見える。

しかし、ここからが問題なのだ。

女の子特有の肌の柔らかさや胸の膨らみは、これからどんどん加速していくだろう。

隠し通すのは、かなり難しいはずだ。

知っている者がハラハラするのは、確実だろう。

しかも当の本人の乱太郎が暢気だから余計だ。

まだまだ秘密の花園は、波乱続きなのです。

終了

平成20年12月25日

流水さんからのリクエストでした。

土井は、女の子乱ちゃんを独占しています：笑

乱ちゃん以外のは組の良い子たちは、乱ちゃんを守る騎士です。

乱ちゃんは、結構お転婆さんなので皆いつもハラハラしてたりします。

流水さんに楽しんでもらえれば幸いです。

アンケ−トに答えて下さりありがとうございました。